フォレストサイドハウス(その13)
29 フォレストサイドハウス(その13)(444)
鶴岡次郎
2016/04/01 (金) 16:50
No.2835

愛の問いかけを受けて、にっこり微笑み、目の前のコップを取り上げ、白い喉を見せて由美子が水を
飲みました。その様子を愛がじれったそうに見つめています。千春は二人のやり取りを楽しんでいま
す。

「賭けなど・・・、そんな不確かな発想で・・・、
人の生き死にさえも左右しかねない大きな秘密を明かすことはしないはず・・。
佐王子さんほどの男がそんな安易な賭けはしないと思う…。
秘密を明かすことに、もっと確かな、はっきりした目的があったはず・・、
私は・・、佐王子さんが浦上さんに仕掛けたテストだったと思う・・・」

「エッ…、テスト…?」

「もし・・、その事実を知って、
浦上さんが結婚を取りやめるような男であれば・・・、
千春さんを嫁にする器量がない・・・、
そんな男なら秘密を隠して結婚してもいずれ破たんが来る・・・と、
佐王子さんは考えたのだと思う・・」

由美子の言葉に愛が大きく頷いています。

「誤解を恐れず、大胆なテストを仕掛けた男も大したものだけれど、
愛する女の秘密を堂々と受け入れ、テストに合格した男も立派だね・・、
二人ともすごい男たちだね…、
そんなすごい男達を本気にさせる千春さんも、また凄い…・」

涙をあふれさせながら愛が言葉を出しています。千春はもう言葉が出ない様子です。

「私は・・・、愛さんの言うほど凄い女ではありません…。
ただ・・、他の女より少しだけスケベーなだけです・・
そんな女がたまたま素晴らしい男たちと巡り合えたのです…」

涙を浮かべながら千春が言っています。


「由美子さんのことが知りたい…、
私と同じような悩みを持っているのですよね…、
私は佐王子さんのような理解者に助けていただいたけれど…、
由美子さんの場合にもそんな方がいらしたのですか・・・」

千春の問いかけを受けて、由美子が少し考えている様子です。それでもすぐに決心がついたようで
ゆっくりと口を開きました。

「私には佐王子さんのような方はいなかった…
千春さんのために、佐王子さんが拓いた道を、夫と私で切り開いてきた…」

遠い視線を宙に漂わせて由美子が静かに語り始めました。

「以前にも言いましたが、夫が最初の男だった…。
結婚して6年後に初めて、二番目の男を知った…。
最初の浮気に、夫は・・、しばらく気が付いていなかった…」

殆ど彼女自身のことは他人に語らない由美子ですが、千春の問いかけをうけて由美子は話すつもりに
なっているようです。

「末の子を幼稚園に入れた時、これで子育てが終わったと思った・・。
ぽっかりと空白の時間が突然私に訪れた・・・、

ある日、街に出て、行きずりの男に声をかけられ、
そのままホテルに付いて行って抱かれた・・・。
今考えると、その日は朝から異常なほど欲情していた。
男から見れば飢えた女に見えたのだと思う…。

一度禁を犯すと、女はダメね…・
堰を切ったように、その日を境に毎日のように男漁りを始めた…」

ぽつり、ポツリと由美子が話しています。おそらく、このことを他人に話すのはこの時が初めてのこ
とだと思います。