フォレストサイドハウス(その13)
2 フォレストサイドハウス(その13)(417)
鶴岡次郎
2016/02/12 (金) 16:37
No.2807

女三人寄れば・・ 

あの日から10日過ぎても窓の女のことが意識から消えないのです。消えないどころかますます鮮明
に彼女のことが思い出され、彼女に会いたい思いが千春の中で募っていました。今までであれば、抱
かれた男への思いが強く、山口のことが忘れきれなくて、彼に何らかのつなぎをとるのが千春の常な
のです。今回に限っては、少し違うのです。男のことはそれなりに思うのですが、窓の女のことを考
えると居ても立っても居られない思いにとらわれるのです。

もう一度会いたい、会ってゆっくり話がしたい、きっと共通の話題がたくさん見つかるはずだ、異常
に男好きであることは互いに気が付いているのです、互いの男性経験も包まず話し合いたい、あの窓
の女に会いたい、その思いが千春の中に大きく成長していたのです。

〈普段着の服装から見て近所に住んでいるに違いない・・・
公園に来るのが日課に近い習慣になっているかも・・〉

まずその見当を付けました。

〈私の恥ずかしい姿を見ても動じていなかった・・・、
それどころか・・、一緒に楽しむ余裕さえ見せていた・・・、

他人のセックスを見ることに慣れている・・・・?
三郎さんが言っていたように、玄人筋の人かしら・・・・?

いや・・・、上品で、ゆったりとした様子から見て・・・、
夜の商売をしているとは思えない、かといって、専業主婦とも思えない・・〉

結局、窓の女の素性は千春には解読不明でした。

〈あの時間、あのトイレに寄ることができる人はかなり特殊な人だ、静かな公園内を散歩したいと思
う人でも、あのトイレに通じる道は選ばない、もっと静かで環境のいい道がある。

あの女が、あの時間、あの場所を通りかかった唯一の理由は、あのルートは公園の北口から入り、南
口に向かうのに最も近い道であることだ。
公園を通り抜けることに彼女の目的があると考えていい・・・、
・・といっても南口には泉の森荘という3階建てのアパート以外、これといった建物はないが・・、
あるいは彼女の自宅が南口の近くにあるのかもしれない。

・・であれば、彼女はあの時間、あの道を辿って、これから先も、北口と南口を往復する可能性が高
い…。根気強く待てば、いつか彼女と再会できる…〉

執念というのは恐ろしいもので、それから一週間、ソープ出勤前の忙しい時間を割いて、昼過ぎ一時
間ほど、公園内のあのルートのそばにあるベンチで当てもなく窓の女を待ち続けたのです。


最初に気が付いたのは千春でした。北口から入ってきたようで、ゆったりとした歩調で窓の女は千春
に近づいてきました。今日はあのトイレに寄る予定はない様子です。

白いブラウスに、オレンジ色のスカート、白いカジュアルシューズで、比較的大きな白い布かばんを
肩にかけています。買い物帰りの主婦然とした様子です。

木陰に置かれたベンチから立ち上がり、ゆっくりと頭を下げる女性を不審そうに見つめていた女の表
情が明るく弾けました。

「ああ・・・、先日の方ですね・・・・、
トラックの男性と一緒だった方ですね…」

「はい・・・、その節はお恥ずかし姿をお見せいたしました…」

二人の女は親友のように笑みを浮かべて手を取り合っています。

「少し歩きましょうか…」

「はい・…」

窓の女は千春が彼女を待ち伏せていたことに気が付いている様子で、歩きながら千春の話を聞くつも
りになって、先に立ってゆっくりと歩を進めています。千春は窓の女に肩を並べました。170セン
チ近い身長の千春と比べると窓の女はかなり小柄です。