フォレストサイドハウス(その13)
18 フォレストサイドハウス(その13)(433)
鶴岡次郎
2016/03/13 (日) 16:17
No.2824

「止めるの…?
最後まで行けばいいのに・・・、
私はそうして欲しいと思っている・・・・・」

中途で止められ、女は少し不満そうな表情を見せています。

「ここまででも、僕にとっては大成功です・・・
ここで失敗したら、元も子もありませんから…」

失敗を恐れた男の理性が店内でのこれ以上の行為を止めたようです。無理はありません、いざとなれ
ば女はどこでも男を受け入れることはできるのですが、意外と男は場所を選ぶのです。これまでも、
経験豊富な中年過ぎのオヤジが、いざとなった時、急にしぼんでしまった例を千春は何度か見てきて
いるのです。千春は黙って男の指示に従いました。

「ありがとうございました。本当にお世話になりました・・。
お礼と言うには、とても足りないのですが、この靴をいただくことにします。
今日の記念に千春さんを思い出しながら、大切に愛用します・・」

身支度を整えた二人が少し照れながら微笑みを浮かべて見つめ合っています。男は給料の20%ほど
値になる靴を買い求めることにしたのです。室内には蒸れた二人の体液の香りが充満しているのです
が、もちろん二人は気が付いていません。

「お買い上げ、ありがとうございます・・、
喜んでいただけて、努力した甲斐がありました・・
それでは少々お待ちください・・・」

売上伝票とコーヒーそして特別に熱いおしぼりを三本も準備して千春が戻ってきました。男がおしぼ
りを使おうとしないので千春が使用を促しています。

「当分、お風呂に入らないし、顔だって洗わないつもりです。
あなたの香りに包まれて、暮らしたいのです…」

「あら・・あら・・、
嘘でもそう言われるとうれしい・・」

本当にうれしそうに千春が笑って答えています。

「あんなことをしてしまって、少し反省をしています。
お店の名誉のために言いますが、普段は絶対しないのよ・・」

「判っています…、
千春さんのご厚意を肝に銘じています・・」

「朝から私・・、少し変だった・・、
女にはそんな日が月に何日か来るのよ・・、
そこへ、素敵な三郎さんが現れたわけなの…、
言ってみれば、半分以上は三郎さんが悪いのよ…、フフ・・・・」

千春が艶然と微笑んで、親しみを込めて男を名前で呼んでいます。既に名刺交換を済ませているので
す。

「ここで千春さんに会えたのは僕にとって本当にラッキーでした。
恥ずかしくて、医者にも行けないで、このまま僕の男が終わると・・、
覚悟を決めていたのです・・・」

「私のスケベーな行為がお役に立ったのですね…、
こんな経験は初めてですが、
お役に立てて、私・・、とっても嬉しいです・・」

「ところで・・・、お礼と言うほどのものではないのですが・・・、
よろしかったら、デイナーをご一緒にいかがでしょうか…」

「はい・・・、喜んで…
今日は早番で、5時には店を出ることが出来ます…・」

その日、佐王子から指示が来ていて、コールガールの来客予定が入っていたのですが、それをキャン
セルするつもりで、千春は浦上の誘いを快諾しました。そして、食事の後、むしろ千春が誘うように
して、二人は近くのホテルへ向かったのです。