フォレストサイドハウス(その13)
15 フォレストサイドハウス(その13)(430)
鶴岡次郎
2016/03/09 (水) 12:49
No.2821
「千春さん・・・」

胸に付けた千春のネームプレートを見て浦上が彼女を下の名前で呼びました。

「千春さんにお礼申し上げます…」

興奮した口調ではなく、むしろ、冷静な、低い口調で、男がささやいています。おやと・・、千春が
男に視線を向けています。興奮で顔を紅潮させているのですが、口調は至極まじめなのです。

股間を勃起させた男たちの生態をよく知っている千春は、目の前の浦上の態度が、口調が、そして雰
囲気が、それまで接していた欲情した男たちとどこか違うのを察知していました。今から女を抱く浮
かれた様子は皆無で、むしろ何か真剣勝負をするような雰囲気さえ漂わせているのです。千春は手を
止めて、男の話を聞く姿勢を見せました。

「ココがこんなになったのは、実は4年ぶりなのです・・」

「・・・・・・・」

少しはにかみながら、千春が握っている股間を指差し、浦上が語り始めました。やはり何か事情が
あったのだと、男根に指を絡ませたまま、千春は納得の表情を浮かべています。

「4年前、妻を癌で失いました・・。
それ以来、女性に接していません・・」

「・・・・・・・」

「接していないのではなく、できないのです…。
その気になって、いかがわしい場所へ、何度も足を運んだのです・・。
しかし・・、いざその時になると・・、ダメでした・・」

「・・・・・・・」

あまりに深刻な話に千春は口を開くことが出来ないのです。それでも男根を握る指は小刻みに動いて
いるのです。それに応えて男根も硬度を維持しています。

「女性を抱くと妻の顔が浮かび上がるのです。
多分妻が許さないのだと・・、
本気でそう思っています・・」

「・・・・・・・・」

亡妻を愛しているからこそ、そうした幻想に悩まされるのだと、千春は目の前の男を見直す思いに
なっていました。そして、その幻想を彼女が追い払い、男を取り戻してやりたいと思う気持ちがむら
むらと千春の中に沸き上がっていました。

「何度も、何度も、そんなことを繰り返して・・・、
私はダメになったと覚悟を決め、あきらめました・・・・
妻の亡霊と一生過ごすのも悪くないと思い始めていたのです・・」

男がしんみりした口調で千春に告白しています。おそらく、この事実を他人に話すのは初めてのこと
だと思います。それだけ、千春に心を許しているのだと思われます。