フォレストサイドハウスの住人達(その10)
9 フォレストサイドハウスの住人達(その10)
鶴岡次郎
2015/01/27 (火) 15:09
No.2644
2015、1、27、記事番号2613の一部を修正しました。

あまり目立つことは避けている様子ですが、佐原が脱ぎ捨てたスーツやネクタイをこっそりロッカーに
戻したり、自分の部屋の中をそれとなく整理しているのです。以前の様子を良く知らない由美子はその
変化を知る手立てがないので、はっきりと断定できないのですが、おそらく幸恵は下着などかなりの生
活必需品を持ち出しているはずだと由美子は考えています。

そして、その気になって家の中を見渡せば、男の一人暮らしとは思えないほど小奇麗に保たれているの
です。それとなく幸恵が室内を整理整頓して、軽く掃除を済ませているのがそこ、かしこから感じ取れ
るのです。これほど確かな証拠があるのに、それまで幸恵と一緒に生活してきた佐原ならそのことに気
が付いてもいいはずですが、自分の脱ぎ捨てた衣類が、まるで一人歩きをして、ロッカーにもどったか
のように思い込んでいるのです。

〈彼女は無理に隠そうとしていないのかも・・、
あるいは・・、家に帰っていることを、
佐原さんに気が付いてほしいと思っているのかもしれない・・、

それにしても、これだけの証拠があるのに・・・、
男って・・・、なんて鈍感なんだろう・・・、
家出した奥さんが何度か戻っているのに気が付かないなんて・・・
でも・・、そんな佐原さんが可愛い・・・・〉

鈍感さにあきれながら、由美子はそんな佐原を愛しく思い始めていました。こうした男の弱さ、幼さを
見ると、由美子の中に居る男好きの虫が騒ぎ始めるのです。潤んだ瞳で由美子は佐原をじっと見つめて
いました。

妻に家出され、その妻が様子を見に昼間何度か戻ってきているのに、全く気が付かないのです。愚かし
さを曝し、それでもけなげに微笑むイケ面の佐原を目の前にして、由美子の女ごころは高ぶっていまし
た。

〈強がっているけど・・、
下着の着替えだって手探りで探しているに違いない・・、
朝起きた時、幸恵さんが居ないのを知り、涙しているかもしれない・・、
仕事を終えて帰ってきた時、家の灯りが灯っていないを見て・・、
家に入るのを止めて、酒場に戻る日も多いだろう…〉

佐原の一人暮らしを思って、由美子は心を痛めていました。出来ることなら抱きしめて慰めてやりたい
と思っているのです。

濡れてキラキラ光り、燃えるような光を放つ瞳を男に向けています、抑え切れない欲望が、女心が、身
体を燃やし始めているのです。女の全身から、妖しい気が漂い出ています。とっくに由美子は佐原を受
け入れるつもりになっているのです。

由美子の家からこのマンションまで歩いて数分の距離ですから、ことさら外出着に着かえることはしま
せん、今日の由美子は自宅でくつろぐ普段着に買物バックを手にしてこのマンションへ来ています。

ミニのスカートに、白のブラウスをつけて、若草色のスプリングコートを羽織ってやってきているの
です。ソファーで意識的に高く脚を組んだ生足がほとんどパンテイまで見えそうになり、白のブラウス
から、同色のブラが透けて見えます。

「幸恵が居なくなった当初はとても生活できないと絶望的な気持ちになっていたのですが、あれから三
週間も経つと、それなりに生活できることが判りました。
勿論不自由なことを上げればキリが有りませんが、そんなものだとあきらめれば、何とか成ることも判
りました・・・」

ティー・カップを手に、佐原が眼を細めて清楚な中に、怪しい色気を醸し出している由美子の全身を舐
めるように見ています。

由美子は勿論男の視線を意識していました。愛が急の発病で同行できないと判った時、男と二人きりに
なる危険を予知できたはずです。それでも由美子は一人でやってきたのです。そして、それなりの準備
をしてきているのです。男に抱かれることを意識して、出かけにシャワーを浴び、身体の隅々まできれ
いにして、派手な色彩を避けながらも大胆なカットの下着や衣類を身に着けてきたのです。