フォレストサイドハウスの住人達(その10)
7 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(271)
鶴岡次郎
2015/01/23 (金) 15:33
No.2642

愛から電話を受けた由美子はチャンス到来と思いましたが、もちろんそんな気振りを出すことはできま
せん。

「私一人では行けない・・・、
元気になったら一緒に行こう・・、それまでは・・」

「佐原さんは待っていると思う・・、
いつもあんなに歓迎してくれるのだから、誰も行かないとなると、
彼・・、きっとがっかりする・・、かわいそうだよ…。

もし・・、何かが起きれば、それはそれでいいのよ・・・、
由美子さんだって、嫌な相手ではないでしょう・・」

愛に背中を押されて、由美子は一人で佐原家を訪ねることにしたのです。この時点で、由美子はもち
ろん、愛も佐原と由美子の間に男と女の関係ができると確信していました。

佐原の自宅は泉の森公園の側にある高級マンション、フォレストサイドハウスの1613号室です。

マンションの玄関で佐原に連絡し、いつもの様に、彼が16階のエレベータホールに迎えに来てくれる
ことになりました。佐原の後に続いて薄暗い廊下を歩いている時、前方の部屋の扉が開き、男が一人出
てきました。このマンションを訪れて他の住人に会うのは珍しいことです。

その男は1614号室の扉を閉めようとして、何かを思い出したらしく、扉を半開きにして、部屋の入
口に立って少し声を高めて奥に居る住人に語りかけ始めました。どうやら、男は近づいてくる由美子達
の存在に気がついていない様子で、かなり気を抜いた様子で部屋の中にいる住人と話し始めたのです。
静かな廊下ですから、男から離れたところに居る由美子でさえ、はっきりとその言葉を聞き取っていま
した。

「先ほど約束したように、遅くなるかもしれないが・・、
今晩、必ず顔を出すから・・、
ああ・・・、夜遅く来ても、カードキーの発行は大丈夫だね・・」

「・・・・・・・・」

部屋の中にいる女性がその声に答えていますが、由美子にはその内容が聞き取れませんでした。男と部
屋に居る女性のやり取りから、その男が部屋の住人ではなく、訪問者だと由美子は推測していました。

これまで何度か紹介しているので、読者の中には、離れたところにいる男性の性的能力を測り取る能力
を由美子が持っているのを覚えておられる方がいると思います。由美子は男性に一メートルまで近づき
ました。由美子はびっくりしていました。その男の放つ体臭を嗅ぎ取り、その男の持つ凄い性的能力を
察知したのです。これほどの能力は由美子でさえ、片手で数えるほどしか経験したことがないのです。

凄い性的能力を持った男が失踪した幸恵の隣家から出てきたのです。そして今夜遅く再度訪問すると、
男は部屋の中にいる女、多分隣家の主婦に違いのないのですが、その女に告げているのです。

おそらく・・、いや確実に、その時隣家の旦那は留守で、何らかの事情で今晩も旦那は自宅へは戻って
来ないのです。その部屋の夫人は午前中、男と熱い一時を過ごし、それだけでは足りないで、夜、もう
一度、男を自宅へ誘いこむつもりなのです。

今耳にした二人の会話から、由美子はこれだけのことを推察していました。そして、その男が訪ねてい
た家が佐原家の隣家であることにある意味を見つけていました。由美子は幸恵失踪とその男とのつなが
りを漠然と感じ取っていたのです。勿論、このことは由美子一人の胸の中に秘め、佐原には話さないと
決めていました。