フォレストサイドハウスの住人達(その10)
48 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(312)
鶴岡次郎
2015/04/28 (火) 14:38
No.2686

「まだ判らないようね・・」 

笑みを浮かべて男の顔を見上げた幸恵が少し声を高めて話し始めました。、

「体を売る仕事をしたり・・・、
奔放な性生活を経験すると・・・、
セックスの味が忘れられなくなり・・、
その女は奔放な生活から抜け出せなくなると・・、
佐王子さんはそう言っているのでしょう・・・」

「そうだね・・・・」

「もし・・、彼の言っていることが真実なら・・・、
セックスの良さを知った女は、体の要求に心が負けて・・、
娼婦としてしか生きて行けないことになる・・・。
もしそうであれば、この世は娼婦で溢れかえることになる・・・、
でも・・、周りを見れば、慎み深い女がほとんどで、
そうなってはいないでしょう・・」

「うん・・・、確かにそう言われるてみると・・・、
あの時は、佐王子さんの説明に反論できなかったけれど、
お前に言われて冷静に考えると、
佐王子さんの理論展開には現実味が少し欠ける気がしてきた…」

「昔、娼婦だった人も、乱れた生活をしてきた人も、足を洗った後、大部分の女は大人しく、上品に暮
らしているはずよ。あの店のお姉さんたちに聞いた話だけれど、昔働いていた女の子の多くが、お金を
貯める目的を果たした後、あの商売から足を洗って、結婚して楽しい家庭を作っている人が多いと言って
いた・・」

「そうなのか・・、佐王子さんに騙されたのか…、
お前はそれが判っていて、騙されたふりをしていたのか・・・。
僕はてっきりお前が本気で生涯あの仕事に打ち込む決心をしたと思い込み、
これも運命なら仕方がない、行けるところまでお前に付いて行く・・・、
そんな悲壮な決意を固めていたのだよ・・」

「判っていた・・・、
佐王子さんの言葉を聞いて、あなたが迷っていたのは判っていた・・、
私が・・、それでも、この仕事を続けたいと言った時、
あなたは泣きそうな表情を浮かべていた・・、
それでも、あなたは反対しなかった・・・。
例え私が娼婦に落ちても、私を見守り続ける意思を見せてくれた・・・。
本当にうれしかった・・」

幸恵は涙を浮かべていました。絡め合った腕と腕を通じて二人の血液が音を立てて交流しているような
気分に二人はなっていました。

「ところで・・・、
アパートを引き払わなかったのは、他に理由があるだろう…」

「判った…?」

「そりゃ分るよ・・、
これでもお前の夫を続けて長いからね…
仕事をする心構えを養うため、あのアパートを借りると言っていたが、
何か他に、別の計略があるはずだと思った・・・」

「・・・・・・」

夫にすべてを話そうか、このまま黙って居ようか、幸恵は迷っていました。企みを秘めた悪戯っぽい顔
をして、下から夫の顔をうかがっているのです。

「お前・・、
あのアパートに男を迎え入れたことがあるだろう・・・?」

「・・・・!」

突然の質問に幸恵が慌てています。