フォレストサイドハウスの住人達(その10)
43 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(307)
鶴岡次郎
2015/04/17 (金) 17:09
No.2681

「お言葉に甘えて・・、
そうさせていただきます…。
勝手なことばかりして、本当に申し訳ありません・・。
でも・・、本当に・・、うれしい…」

幸恵が深々と頭を下げています。

「そうだ・・・、今日のことを親方に報告してきます。
あなたが来たことは親方に伝わっていると思うから・・、
あれでいろいろ気を使う人なのよ・・、
心配していると思うから事の顛末を報告してきます・・」

佐原に背を向けて店長室の方向を一歩踏み出した幸恵がそこで突然立ち止まり、振り返り、かなり高い
声で佐原に声を掛けました。

「そうだ・・、
せっかくだから、あなたも親方に会ってほしい・・・
会えばわかると思うけれど、中々の人物よ・・・」


ドアーをノックすると、内側から扉が開いて、満面に笑みを浮かべた佐王子が佐原夫妻を迎え入れま
した。

「ご主人が来ておられると聞いておりまして・・、
どんな様子かと、少し心配しておりました…。
お二人でここへ顔を出されたということは、悪い話ではないようですね・・」

二人が部屋に入ってきた様子から、事の展開を佐王子はある程度まで読み切っていたようです。

幸恵が手短に事の経過を報告しました。佐王子は何度も頷きながら、上機嫌で聞いていました。

「今、幸恵が報告しましたように、私達夫婦は元の鞘に収まります。
元をただせば私の悪い癖が原因ですから、今回のことに関しては、
幸恵には感謝こそすれ、不満も、怒りも何もありません。
佐王子さんには随分とお世話になりました。改めてお礼申し上げます」

佐原が心から佐王子にお礼を言っています。

「そんなに丁寧にお礼を言われると、どうお応えしていいか戸惑います。
奥様をこの店で働かせている張本人ですから、ご主人がお見えになったと聞いた時から、
一、二発殴られるのは覚悟していたのです。それが、事もあろうにお礼を言われるとは・・。

こんな商売をしていると、人様から感謝されることが少ないのです。
当然のことですが、店で働く女の子のご主人とはこうして会うことさえも稀で、
まして、ご主人からお礼を言われたことは一度もありません。
逆に、脅かされたり、泣かれたりするのはいつものことですが・・・、
ハハ・・・・・」

佐王子が笑い、二人も笑みを浮かべています。

「ところで・・、
幸恵さんはここの勤めを続けたいと希望され、
ご主人もそのことを認めていらっしゃるとのことですね…」

「はい・・、
幸恵がその気になっていますから、好きにさせようと思っています。
いえ・・、正確にいうと・・・、
私自身も・・、幸恵がこの商売をつづけることを望んでいます。
お笑いください・・、
そのことを考えるだけで酷く妬けるのですが・・、
その刺激を考えると、興奮するのです・・・・」

ソープの店主が相手ですから、何も隠さないで恥ずかしい性癖を佐原は隠そうとしていません。

「そうですか・・・、
やはり・・、仕事をつづけるつもりですか・・・・・、
困りましたね…」

簡単に仕事の継続を認めてくれると思ったのですが、意外に難しい顔をする佐王子を見て佐原と幸恵が
不安そうな表情を浮かべています。