フォレストサイドハウスの住人達(その10)
40 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(304)
鶴岡次郎
2015/04/14 (火) 12:36
No.2678
体から立ち上がる娼婦の匂いを夫に悟られたと妻は不安と絶望感を抱き、一方夫は、隠れて変態的な買
春をしたことへの仕返しのため妻が売春婦に身を落したと受け止めていたのです。互いに相手の気持ち
を誤解していたことを知り、幸恵はすこし落ち着きを取り戻しています。そして、愚かな誤解をしてい
た夫に女の本当の気持ちを語り聞かせるべくゆっくりと話し始めました。

「ゴルフも、囲碁も、釣りも、あなたの好きなことを私は何もできません・・、
私はいつもあなたに一方的に可愛がられているだけです・・。
パソコンを習い始めたのも、あなたとの会話の足しになればと思ったからです・・」

幸恵の語りを聞きながら、佐原は徐々に冷静さを取り戻していました。自身の気持ちを切々と語る妻を
かわいいと思えるほど余裕を取り戻していたのです。

「ビデオの中であなたがとても楽しそうにしているのを見て・・、
あの女に強く嫉妬しました・・。

あなたをこんなに喜ばしたことが一度もない・・、
愛しているあなたを喜ばせたい・・・、
この女に負けたくないと思いました…。

出来ることなら、ビデオの中に居る女の様に振る舞いたいと思いました。
でも・・、私にはできないことは最初から分かっていました・・。

千春さんの紹介で出会った親方が、お店で修業すれば、
私でもビデオの中の女のように成れると保証してくれました。
私はびっくりしました・・。

あなたを喜ばせることが出来るのなら、私はどうなってもいい・・・、
そう思うと、後先のことは考えないで・・・、
夢中でこの世界に飛び込んでいました・・・」

「・・・・・・」

佐原は黙って幸恵の言葉を聞いていました。あふれ出た涙が頬を伝わり、男の顎から床に落ちていまし
た。

「それでも、知らない男達に毎日抱かれていると・・、
ふと・・、
平凡だけれど、何も後ろめたさが無かった昔の生活を思い出し、
こんなことをしていては・・、
こんなに汚れてしまっては・・、
とてもあなたの処へ戻れないと・・、
後悔と罪悪感に苛まれることが多くなっていました・・」

佐原の前に座り込み、幸恵も涙をあふれさせながら話しています。

「今日・・、あなたの顔を見た時・・・、
これで、全てが終わったと思いました・・。
修行の成果をあなたに見せて・・、
その後、黙って、今度こそ、絶対見つからない処へ、身を隠すつもりでした。

あなたは許すといってくださいましたが・・・、
私がこのニケ月してきたことを考えると・・・、
元に戻れるとは思っていません・・。
このまま、捨てられても文句は言えないと思っています・・」

覚悟を決めた表情を浮かべ幸恵は佐原の顔をまっすぐに見ていました。どうやら、幸恵は、自身の犯し
た罪を考えると、許されるべきでないと覚悟を固めている様子です。