フォレストサイドハウスの住人達(その10)
4 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(268)
鶴岡次郎
2015/01/20 (火) 15:48
No.2639

幸恵がゆっくりと口を開きました。どうやら佐王子の態度を見て、信頼できる男だと確信した様子です。

「正直申しまして、こんな映像を見たのはこの歳になって初めてで、
本当に驚きました…。主人の人格を疑いました…。

誰に相談することも出来ないで、思い余って、千春さんにお話ししたのです・・・。
でも・・、佐王子さんの今の言葉を聞いて、
私が考えているほど、主人が異常な男でないと理解できました。
そして、あなたにご相談したことが間違いでなかったといまさらながら、
安どして、喜んでおります…」

幸恵の心の動きが良く判っているようで、佐王子は軽く頷きながら口を開きました。

「ご主人には、このことを話されたのですか・・・」

幸恵は黙って首を振っています。

「・・・で、奥様はこの件をどう処理したいのですか・・」

「・・・・・・・・」

佐王子が訊ねていますが幸恵は答を探している様子で、即答できません。おそらく、あまりに異常な出
来事で、このことを考え始めると正常な思考能力を失うようです。

「ご主人のことを許せないと思いなのですか…、
それとも、汚らわしいと思いなのですか・・・」

「良く判らないのです・・・、、
勿論、憎らしいと思います、裏切られたとも思います・・。
でも、それだけではないのです…。
何となく、あの人がかわいそうな気がしてくるのです・・」

「かわいそうだと思うのですか・・・?
ほう・・、面白い感想ですね・・・」

興味ありそうな表情で佐王子が幸恵を見つめています。

「こんな姿を見せつけられて、
幸恵さん…、
ご主人をかわいそうだと思うのですか・・」

少し怒気を込めた調子で千春が言っています。

「ゴメンナサイね・・、
千春さんが怒る気持ちはわかる・・、
私だって・・・、
初めてこの映像を見た時は、彼を憎いと思った・・・、
裏切られたとも思った・・・、」

「だったら…、
その怒りをそのままここでも吐き出さばいいのよ…、
私に言わせれば、一番かわいそうなのは幸恵さんよ…」

「ゴメンナサイね・・、言葉が少し足りなかったようで、
千春さんに誤解を与えたようだけれど、
その後、冷静になって考えると、
私は主人の行為をそんなに憎めなくなっているのよ・・・、

確かにこの映像の中では彼は異常だけれど、
冷静に考えると・・・、
この映像の中の彼は完全にオフ状態なのよね・・、
毎日ストレスの多い仕事をして、家では理想的な夫であり続けてきた。
そんなあの人が、時には羽目を外すことがあってもいいと思うの・・・。

可愛そうだと思うのは・・、
この映像の中で、主人が本当に楽しそうにしているからよ・・、
少なくとも、私はこんなことを主人にはして上げられない・・・、
こんなことが好きだったなんて、想像もできなかった…、
主人の好みを十分理解できなくて、申し訳ないと思っている・・」

「幸恵さん・・・」

千春が驚きと、幸恵への感嘆の思いを露わにしています。