フォレストサイドハウスの住人達(その10)
37 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(301)
鶴岡次郎
2015/04/09 (木) 15:46
No.2674

佐原をじっと見つめて幸恵がゆっくり口を開きました。

「でも・・、あの時は・・・
それ以外の選択肢が私には考えられなかったのです・・・、
それほど私は追いつめられていたのです・・・・

あのビデオを見て、あなたの喜ぶ姿を見た時、
私の存在そのものが否定されたと思いました・・・、
何とかしなくてはいけないと思ったのです・・・・」

「そうだろうな・・・
僕は酷いことをしたのだからな・・・
お前が途方に暮れ、正常な判断ができなかったのは当然だ、

先ほどはうっかりお前の行為を責めてしまったが・・、
お前を責めるつもり気など最初から持っていないのだ…、
悪いのは僕で、お前には何の落ち度もない・・、
改めて謝りたい・・、この通りだ・・・・」

佐原はすっかり落ち込んで、深々と頭を下げています。

「そんなに頭を下げないでください・・・、
今、冷静に考えれば、別の道もあったと思っています・・、
謝らなくてはいけないのは、むしろ私の方です・・・・」

「お前に謝る理由はない・・、
悪いのは僕だ…」

「いえ・・、私こそ…
あなたに無断で、この店で働くことにしたのですから・・
結果としてあなたを裏切り、私自身を汚しました…」

「いや・・、そうさせたのは僕だ・・・、
僕の方が悪い・・・」

「いえ・・、私の方こそ…
もっと冷静に考えるべきでした…」

二人は互いに頭を下げ合っています。

「これでは切がありませんね…」

「そうだね・・、両者痛み分けとするか・・
どうだろう・・・、
全て、無かったことにして、元の鞘に戻るとするか…」

「エッ・・、今・・、なんと言いました・・・・。
許してくれるのですか・・・」

「ああ・・、
お前さえ良ければ、戻ってきてほしい…」

「そんな・・・、
許されるとは夢にも思っていませんでした・・、
本当にいいのですか・・・」

許すと言う思いがけない佐原の言葉を聞いて涙ぐみながら無理に笑みを作ろうとしています。

「うん・・、
この店に来た最初から・・、
僕はお前との仲を元に戻すつもりだった・・
その考えは今も変わりない・・・・」

「本当にいいのですか・・・
元々、あなたが嫌で家出をしたわけではなかったので、
もっと早い時期に見つけ出していただいていれば・・・、
事情を話せば、私のわがままを受け入れていただき、
少し汚れたけれど、この程度なら我慢できると認めていただき・・・、
お許しが出て、元の鞘に収まることが出来ると期待しておりました…」

「・・・・・・・」

幸恵の言葉に、佐原が、そうだろう・・と言う表情を浮かべ、何度も頷いています。

「でも・・、一ケ月経ち、二ケ月経ってもあなたは現れませんでした。
私は見捨てられたと悟りました…。

自身の愚かな行為から出た結果とはいえ・・・、
私は戻るべき道を失ってしまったと思いました・・

今日・・、あなたの顔を見た時、うれしかったけれど・・・、
遅すぎたと・・・、心中で泣いていました・・。
戻るにはあまりにも、この世界にどっぷりつかってしまっていたからです。
こんなに汚れてしまっては、あなたの傍に戻れないと泣いていました・・。

まさか・・、許していただけるなんて・・・・、
夢のようです・・、

本当にいいのですか…、
こんなに汚れはてた私を許してくれるのですか・・」

涙をあふれさせ、幸恵は必死で尋ねています。笑みを浮かべて佐原が何度も、何度も頷いています。
そして、ゆっくりと幸恵を抱きしめました。

「うれしい…」

佐原の体を力いっぱい抱きしめて、声を上げて幸恵は泣いていました。
2015.4.10(@一部修正)