フォレストサイドハウスの住人達(その10)
35 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(299)
鶴岡次郎
2015/04/06 (月) 11:31
No.2672
なぜソープに身を沈めたのか、それが佐原の中で一番肝心な、そして一番大きな疑問でした。佐原への
あてつけ行為だとしても、いきなりソープ勤めを選び、その計画を実行するのは、幸恵一人の知恵では
無理だろうと思っていたのです。千春の登場で佐原は幸恵失踪の影に千春が居ると察知しました。そこ
で、思い切って質問することにしたのです。

「千春さんがこの店に勤めることを薦めたのか・・・」

「この仕事を選んだのは私一人の考えで、誰かに勧められたわけではありません。
あの動画を見て、あなたがあのような行為が好きだと判り、
考えに考えた末、思い切って、ソープの仕事をすることにしたのです。

そのことを千春さんに告げると、佐王子さんと引き合わせてくれたのです。
佐王子さんはこの店のオーナで千春さんとは古くから知り合いで・・・、
・・と言うより、親方は千春さんの愛人なのです・・。

親方との関係は千春さんのご主人も認めています。
三人の関係はとても複雑で、私には良く判りません・・。

その方にも、動画を見せ、ソープで働きたいと伝えました。
その方はちょっと考えた後・・・、
詳しい事情は何も聞かないでいろいろ便宜を図ってくれました。
お陰で、家出をした翌日からお店に出るようになりました…」

幸恵は淡々と話しています。それでも、なぜ、ソープで働くことにしたのか、肝心のその理由は明確に
は話しませんでした。この場でその理由を明らかにしないのは、佐原への心遣い、優しさなのだと佐原
は理解していました。


幸恵がY市の佐王子の店で体を売るに等しい仕事をしていると、寺崎探偵事務所から報告を受けた時、
びっくりしましたが、佐原はそれほど意外だとは思いませんでした。パソコンの動画を見た幸恵がリベ
ンジ(報復)のためその店で働くことを選んだと佐原は受け取ったのです。

日頃は優しく、大人しい女性ですが、芯の強いところがあり、酷い仕打ちで佐原に裏切られたと判れば、
リベンジのため自分の体を売ることだってやり遂げる女性だと佐原は考えたのです。

そして、そうした突飛な行動の裏に千春と彼女の愛人である佐王子が存在することを佐原は幸恵から教
えられたのです。おそらく、千春も、佐王子も、幸恵から詳しい説明を受け、彼女に同情して、リベン
ジに肩を貸す気持ちになり、協力を申し出たのだと佐原は考えたのです。

実は、寺崎探偵事務所は幸恵と面談して、千春の存在も、佐王子と幸恵の関係も、全て知っていたので
す。しかし、佐原に提出した報告書にはそのことは一切書かなかったのです。佐原は幸恵から始めて千
春と佐王子の存在を知らされたのです。 


「お前からいろいろ説明を聞いて、
お前の家出の真相がようやく理解できた。
全ての背景が判っても、お前を非難する資格が僕にないとの思いは変わらない。

本来であれば真っ先に頭を下げ、お前の許しを請うべきだったが、
つい・・、いろいろな質問を重ねてしまったことを許してほしい・・・
幸恵・・・・」

ここで佐原は姿勢を正し、床に両手をついて、深々と頭を下げました。突然のことですから、幸恵は
びっくりして佐原を見つめています。

「君に対して僕は酷いことをしたと思っている・・。
決して許されることではないと思っている・・。
改めて、心からお詫びをしたいと思っている…」

「・・・・」

床に頭が着くほど深々と頭を下げる佐原に幸恵が優しい視線を送っています。