フォレストサイドハウスの住人達(その10)
30 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(294)
鶴岡次郎
2015/03/25 (水) 17:45
No.2666

それから20分ほど二人の女は語り合いました。互いにこの人ならとの思いがあるのでしょう、失踪の
理由とその目的を幸恵が淡々と語り、時々短い質問を入れながら由美子は熱心に説明を聞きました。寺
崎は口を挟まないで、時々手帳にメモを落としていました。

「これで私の言いたいことはすべて話したわ・・・。
他に何か聞きたいことはある・・・?」

「何もありません・・、
本当にありがとうございました・・。
奥様は私が思っていた通りのお方でした・・」

二人の女は期せずして両手を握り合い、微笑みあっていました。

「今日の話し合いの結果は、ご主人には伏せておきたいと私は思っています。
できれば、奥様も私達とここで会ったことは内緒にしていただけるとありがたいのですが・・・、

そうですか・・、ありがとうございます・・・」

由美子の言葉に幸恵が微笑みで答え、軽く頷いていました。

「この後、奥様の勤務されているお店のことや、そこでの仕事の内容を、何も隠さず、事実をありのま
ま報告書にしたためて、佐原靖男様に本日中に提出する予定です。勿論、先ほどお話しいただいた家出
の真相に関しては、鶴岡由美子が言った通り報告書には何も書きません。

報告書を受け取った佐原靖男様が、その後どのような行動をとられるか私には予測できませんが、佐原
靖男様からご下問があれば、奥様のお店にお客として訪ねることを進言するつもりです。それでよろし
いでしょうか・・・・」

「ハイ・・・・・」

寺崎の言葉に幸恵が笑顔で頷いています。どうやら幸恵自身もそのことを望んでいる様子です。

「もし・・・、ご主人がお店に訪ねてこられたら・・・、
奥様はどのように対応されますか、参考までに聞かせてほしいのですが・・」

「ホホ・・・・、難しい質問ですね・・、
相手の出方次第ですが・・・、
今言えることは、通常通り・・・、
普通のお客様と同じように対応できれば最高だと思っています。
出来るどうか判りませんが、そうできればいいと思っています・・」

「最高です・・・、そうしていただくことが出来れば・・、
わたしから、何も申し上げることはありません・・・。
由美子さん・・、あなたの意見は・・・?」

「勿論、奥様の考えに120%賛成です・・」

幸恵に見送られて寺崎と由美子はそのアパートを辞しました。幸恵も由美子も、そして寺崎も晴れ晴れ
とした表情を浮かべていました。