フォレストサイドハウスの住人達(その10)
28 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(292)
鶴岡次郎
2015/03/21 (土) 14:43
No.2664

6畳間に置かれた折りたたみ型のテーブルを囲んで三人が対面しました。寺崎が名刺を出し、佐原の調
査依頼を受けて、ようやく幸恵の居所と、彼女の勤務先を突き止めたことを告げました。どうやら幸恵
は二人の来訪を予想出来ていたようで、慌てたところもなく、緊張もしていない様子です。むしろ、こ
れから幸恵との大切な対話が控えている由美子がかなり緊張している様子なのです。

「そうですか・・、お店のことも調査済みですか・・・
それであれば、私があの店で何をしているのかも全てご存知なのですね・・・。

あれから二ケ月ですね…、
もっと早く見つかると覚悟していたのですが・・、
正直言って、意外と遅かったと思っています…」

寺崎の説明を受けて、幸恵がにっこり微笑みを浮かべて答えました。ソープ勤めを恥じたり、隠そうと
する様子は見せませんでした。
普段着の花柄模様のワンピースを身に付けて、口紅だけでほとんど化粧をしていません。さすがに良家
の奥様然とした雰囲気を保っていて、清楚な美人です。初めて幸恵に会った時から、佐王子は親しい気
持ちになっていたのですが、それはどうやら幸恵の雰囲気、顔だちが由美子に似通っていることが原因
だと納得していました。 

「佐原様よりは奥様の無事と、居どころを見つけるよう依頼されております。その意味で、私どもが受
託いたしました調査依頼そのものは完了いたしております。本日中に調査結果を佐原靖男様に報告する
予定です。

本日こうしてお伺いしたのは、ここに控えております調査員の鶴岡由美子がどうしても幸恵さんとお話
がしたい、ご主人に調査結果を提出する前に、幸恵さんのご意見を聞きたいと申しますものですから、
少し異例ですが、幸恵さんに面談することにいたしました。

本日お話しいただく内容は、幸恵さんのお許しがない限り、佐原靖男様には報告しないことを約束いた
します・・」

「鶴岡由美子と申します…」

寺崎の紹介を受けて由美子が深々と頭を下げています。由美子の表情、そして全身を幸恵がゆっくり見
ています。今日の由美子は紺のテーラドスーツに白のブラウスと言った典型的なビジネススタイルです。

「きれいな方ですね・・、そう言っては何ですが・・・、
探偵事務所には不似合いなほど優しい雰囲気をお持ちですね、
私からどんなことを聞きたいのですか・・?」

由美子に好印象を持ったようで優しい表情で由美子に声を掛けています。

「調査依頼を受けましてから、佐原様とは数回お会いして、親しくお話を伺う機会がありました。お会
いする度に、佐原様の素晴らしい人間性に惹かれて行きました。一人の男性としても素晴らしい方だと
思っています・・・」

「佐原のことをそんなに褒めていただいてありがとう・・・、 
貴女の様に素晴らしい方に褒められるとうれしい・・・」

幸恵はじっと由美子を見つめています。そしてにっこり微笑み、打ち解けた様子を見せています。

「今気が付いたのですが・・・、
由美子さん・・・、あなたは佐原が好きなタイプの女性です・・。

上品で、理知的で、それでいて、得体の知れないお色気が全身からあふれ出ている。多分・・、どんな
男でもあなたに惹かれると思いますが、佐原も間違いなくあなたに惹かれていると思います。

ご存知の様に、固い性格で本音を絶対見せない人ですが、
惚れた弱みで、由美子さんには隙を見せたのでしょうね・・」

「・・・・・・」

幸恵の問いかけに由美子は肯定も否定もしません。ただ笑っているだけです。