フォレストサイドハウスの住人達(その10)
27 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(291)
鶴岡次郎
2015/03/20 (金) 13:57
No.2663

由美子の情報を得た寺崎探偵事務所の調査は目覚ましい進捗を遂げました。幸恵の仮住まいであるY市
内にある1DKのアパートは直ぐ見つかりました。佐原家の隣、浦上家の主婦、千春、31歳と密会して
いた男の素性もすぐ判りました。

Y市で中規模のソープを経営している男で、名は佐王子保、50歳過ぎで、業界ではかなり有名な竿師
であることが判明したのです。そして、驚いたことに家出した幸恵は佐王子の経営するソープで熟年
ソープ嬢として働いているのです。由美子の直感がまさに的中したのです。

佐王子の後をつけた探偵事務所の調査員は、さらに予想外の事実も掴みました。千春以外に、フォレス
トサイドマンションの住人である複数の女性宅を佐王子が昼間、おそらく当主の留守を狙って、訪問し
ていることが判ったのです。そこで数時間過ごしていることから考えて、それらの女性と佐王子が男女
の関係を持っていることは疑いの余地はないのです。

〈佐王子ほどの竿師が、ただの浮気で女を抱くはずがない・・、
彼に抱かれた女たちを商売に利用するつもりだ…
幸恵夫人の様に、彼女たちをいずれ自分の店で働かせるつもりなのか・・・〉

調査員の報告を聞いた寺崎は最初そう考えたのです。

〈しかし・・、単純にそう考えるのはすこし早い・・、幸恵もそうだが・・、
あのマンションの住人であるセレブな女たちが易々とソープに身を落とすだろうか・・、
幸恵の様子を見る限り、監禁されている様子はない、自由に泳いでいる・・。

金で縛るとか・・、それとも、恥ずかしい写真を公表すると脅かすとか・・・、
佐王子の体で女を取り込むとか・・、最悪ケースとして薬物を使用することも考えられるが・・、
幸恵の場合に限ってみても、そのいずれでもなさそうだ。むしろ、幸恵の自由意思で佐王子の店で働い
ているように見える・・・〉

この時点で、佐王子に強制されてソープ勤めを始めたのか、あるいは幸恵自身の自由意志でその仕事を
始めたのか、寺崎はそのいずれの可能性も否定できずにいたのです。またマンションの他の女と関係を
持っている佐王子の真の目的がどこにあるのかも寺崎は掴み切れていませんでした。しかし、幸恵の居
所を見つけ出す依頼主の要望は達成したことになりますので、寺崎はそれ以上の捜査を中断することに
しました。そして、依頼主への報告に先立って由美子との約束を果たすことにしたのです。

由美子は寺崎探偵事務所の一所員として寺崎所長のお供をして幸恵のアパートを訪問しました。厳密な
ことを言えば、依頼者佐原の了解を得ないで調査対象である幸恵に探偵が接触するのは離反行為なので
すが、寺崎の判断で決行することになったのです。

その日、事前に調べた通り幸恵はオフの日で朝から洗濯や、部屋の掃除をしていました。午前10時ご
ろ寺崎と由美子が幸恵のアパートのドアーをノックしました。アパートは二階建ての木造住宅で6家族
が暮らしていて、一階が子供のいる家族用、二階が独身者用に使われていました。

ドアーを開け、寺崎と由美子の姿を見た幸恵は一瞬不審そうな表情を見せましたが、次の瞬間には二人
の身分も、二人の訪問目的も分かったようで、笑みを浮かべて室内に招き入れました。

6畳の居間兼寝室、4畳半のダイニングキッチン、その他にふろ場と便所、半畳足らずの玄関が備わった
典型的な独身者用のアパートでした。広くて、豪華な幸恵の自宅とは比べようもありませんが、整理整頓
が行き届いていて、住みやすい雰囲気でした。