フォレストサイドハウスの住人達(その10)
26 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(290)
鶴岡次郎
2015/03/19 (木) 15:44
No.2662

寺崎の困っている様子を、笑みを浮かべて見ていた由美子が悪戯っぽい表情で口を開きました。

「寺崎さん・・・、
私を雇ってくださいませんか・・
臨時雇いで構いませんから・・・・」

「エッ・・、
由美子さんを家の事務所で雇うのですか・・・。

う・・・ん・・・・、
参りました・・・。
その手があったのですね…、

由美子さん・・、
そのアイデアはあなた一人の考えではないでしょう・・」

「ハイ・・・」

「あの野郎・・・、
ご主人ですね、そんな悪知恵を由美子さんに与えたのは・・」

「・・・・・・」

由美子が笑いを押さえながら、黙って頷いています。


寺崎に出す条件を鶴岡に話したところ、守秘義務を盾にして寺崎が要求を飲まないことを指摘されたの
です。どうしても幸恵夫人と話がしたいのであれば、探偵社に雇われて、寺崎の部下になれば、由美子
の計画通り、幸恵が発見された時、真っ先に話をすることが出来るとアドバイスを受けたのです。

「判りました・・、良いでしょう・・・。
今、この瞬間から、奥様を私の事務所の臨時職員に採用します。
そして、早速、佐原幸恵さんの捜査をあなたに命じます。
これで良いですね・・、

さあ・・、情報を全部吐き出して下さい・・」

佐原と寝たことも含め、由美子は掴んでいる情報をすべて寺崎に話しました。手にしたウィスキー・グ
ラスが空になったのも気づかない様子で寺崎は熱心に耳を傾けていました。

「そうすると・・・、あのマンションを張っていれば、忍び込んでくる夫人を発見することが出来るの
ですね、彼女の後をつければ簡単に居所を見つけ出せるはずです。

また、隣の奥さんを訪ねてくるそのヤクザも相当怪しいですね・・、
由美子探偵員の勘を信じて、その男も捜査の対象にしましょう・・
幸恵さん失踪に彼が絡んでいる可能性は高いですね、
おっしゃる通り、数日ですべて明らかになると思います…。

それにしても、これだけの情報を短期間に掴んでくるとは…、
素人にしておくのはもったいないですね…、
それに、真実を探るためとはいえ・・、
その熟した身体を何度か佐原に与えたのでしょう…
普通の女性では由美子さんのような思い切ったことはできません・・

奥さんのような探偵が居れば、私の事務所はもっと繁盛すると思います。
どうです・・、臨時ではなく、正式に家の職員になりませんか・・
ハハ・・、そうすると、Uさんが怒りますかね・・・」

「彼に抱かれたことは主人にも、Uさんにも内緒よ…、
この手以外真実を探る方法がなかったのは事実だけれど、
一方では、彼が好きで、抱かれても良い気になっていたのも事実よ・・・
決して褒められたことでないのは判っています・・」

「勿論・・、彼に抱かれたことを私は決して褒めていません・・・、
これはやきもち半分の、もてない男の独り言ですが、
何度も抱かれたのは・・、やはり、やり過ぎだと思いますよ・・
情報を掴むためであれば一度でいいのです・・・、
何度も、何度もやるのは行き過ぎです・・・・・
これから先は、止めてくださいね…」

「ハイ、ハイ・・・、
止める努力をいたします…」

冗談とも、本音ともつかない寺崎の言葉に、由美子が艶然と笑って答えています。どうやら、佐原家通
いは続けるつもりのようです。