フォレストサイドハウスの住人達(その10)
25 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(289)
鶴岡次郎
2015/03/17 (火) 11:59
No.2661
喉仏を見て女が興奮していることなど全く気が付いていない男は一気にコップの水を飲みほし、大きな
吐息を吐き出しました。

「ああ・・、美味しい・・・、
これですっきりしました。頭もさえてきました…。
さあ・・・、準備は整いました・・・、
さて・・・、由美子さんの条件とやらをまず聞かせてください・・」

「いいわ・・、私の条件を話すわね…。
私が掴んでいる情報を知れば、
幸恵夫人の隠れ家を簡単に突き止めることが出来ると思う・・・。
そうすれば、寺崎さんであれば二、三日で事件を解決できると思う。
このことを十分承知してほしいの、それだけの価値がある情報だから…」

「大変な自信ですね・・、
興味がわいてきました・・・。
その条件とやらをまず聞きましょう・・・」

無意識に手を伸ばし、ウイスキー・グラスを持ち上げていたのですが、途中で思いとどまり、テーブル
に戻し、姿勢を正しています。

「簡単な条件よ・・、
幸恵夫人を見つけたら、真っ先に私に知らせてほしいの・・、
そして、私が彼女と話をする時間が欲しい、30分で良いわ・・、
その後、ご主人に知らせるなり、彼女を連れて帰るなり、自由にしても良い。
どう・・、簡単な条件でしょう・・」

由美子の表情を寺崎は読み取ろうとしています。由美子はただニコニコと笑っているだけです。

「奥様もご存じだと思いますが、我々探偵には依頼者に対して、その方の秘密を誰にも洩らせない守秘
義務があります。その守秘義務を破るようでは、私の仕事は成り立ちません。

奥様が出された条件はその守秘義務を放棄せよと言うのに等しいのです。
どんなにおいしい情報でも、守秘義務を放棄する価値はありません・・・」

かなり真剣な表情を浮かべ寺崎が語っています。予想出来た寺崎の反応なのでしょう、笑みを浮かべた
由美子の表情は変わりません。

「判りました。おっしゃる通りだと思います。
私が提示した条件は間違いでした。
寺崎さん・・、先ほど言ったことは全部忘れてください・・・」

「いや・・、そう簡単に引き下がられると困ります・・、
由美子さんの情報は喉から手が出るほど欲しいし・・・、
しかし・・、守秘義務は守り切らなくてはならないし・・・
ああ・・・、困ったな・・・」

あっさり条件を撤回した由美子の態度に寺崎が慌てています。思わずテーブルの上にあるグラスを取り
上げ、琥珀色の液体を喉へ一気に流し込んでいます。