フォレストサイドハウスの住人達(その10)
24 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(288)
鶴岡次郎
2015/03/08 (日) 16:09
No.2660

ここは鶴岡の自宅です。寺崎探偵は都心の事務所を出て、まっすぐにここへやってきたのです。事前に
何も連絡を入れていませんでしたが、いつもの様に、鶴岡も、由美子も笑顔で彼を迎えてくれました。

「酒癖の悪い俺を避けて、旦那は早々と書斎に籠ってしまったし・・、
由美子さんは、私を見捨てて、台所仕事・・、
哀れな寺崎探偵は一人寂しくグラスを舐めています…」

ウイスキー・グラスを傾けながら寺崎が何事かぶつぶつつぶやいています。言葉とは裏腹にご機嫌の様
子です。独身の気軽な身ですから、月に二度は鶴岡家にこうして顔を出す寺崎です。夕食を食べてその
まま帰るか、泊まり込んで翌朝事務所へ直接出勤したりしているのです。

この日も、夕食が終わった後、一人食卓に残って、ウイスキーを舐めながら、キッチンにいる由美子を
チラチラ見ながら独り言をつぶやいているのです。酒があまり飲めない鶴岡は早々に切り上げて、自室
へ逃げ込んでいます。

「由美子さん・・、佐原さんから聞きましたが・・、
あなたと愛さんは頻繁に佐原さん宅を訪ねているようですね・・。
彼・・、私のことで何か苦情を言っていませんでしたか・・・」

「・・・・・」

「えっ・・、何も聞いていない…
そうですか、それならいいのですが・・・

実は最近、佐原さんから、未だか未だかと・・、
かなり強く追及されているのです。
失踪から二ケ月ですからね・・、旦那にすれば当然です・・。
由美子さん・・、何か手がかりになるモノを掴んでいませんか…」

本当に困っているのか、藁をも掴む心境になっているようで、由美子への質問に本音が見え隠れしてい
るのです。普段なら仕事のことは親しい鶴岡夫妻にも、絶対話さない寺崎ですが、由美子の紹介で幸恵
失踪の調査を佐原から頼まれたので、この件では由美子に相談しても良いと思っている様子です。

由美子がエプロンで手を拭きながらキッチンから出てきました。台所仕事が一段落ついたので、寺崎の
相手をするつもりのようです。笑みを浮かべて寺崎の前に座りました。

「幸恵さんの調査が行き止まっているようね…、
ねえ・・、私・・・、いい情報を握っているの…
まだ誰にも話していないことだけれど、寺崎さんの出方次第では話してもいいわ・・、

私の握っている情報を話すには一つ条件があります・・、
この条件を聞いていただけないのであれば、話せません・・」

胸の広く開いたワンピースを着けていて、家にいる時の習慣で、いつもの様にノーブラです。小ぶりの
乳房が見え隠れしています。夜ですから朱に近い濃い唇を作っています。

〈相変わらずそそる女だ・・・、
俺には抱かせてくれないけれど、
毎日のように違う男がこの女を抱いているのだろう・・、
男達の粘液がこの女の妖しさを育ているのだ…〉

淫らな妄想をしながら、酔眼を凝らしてじっと由美子を見つめています。

「ネエ・・、寺崎さん・・・、
聞いているの・・?」

「エッ・・、ああ・・、条件ね…、
どんなことだろう・・、
由美子さんの頼みであれば、不肖、寺崎探偵、火の中、水の中・・・」

「ああ・・、酔っぱらっているのね…、
大切な話なのよ・・・
酔っ払いには聞かせたくない話なの…。
さあ・・、これを飲んで、気を引き締めてちょうだい…」

由美子の言葉の調子が少し違うことを察知した寺崎の表情が少し変わっています。姿勢を正し、笑みを
消し、寺崎は由美子の顔をまっすぐに見ました。そして、由美子の差し出すコップを受け取り、冷たい
水をゆっくりと喉に流し込んでいます。寺崎の喉仏がゴクリゴクリと蠢いています。口には出しません
が、男の喉仏が動くのを見るのが由美子は大好きです。性的な興奮さえ感じるのです。