フォレストサイドハウスの住人達(その10)
2 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(266)
鶴岡次郎
2015/01/13 (火) 16:12
No.2637

幸恵の失踪

フォレストサイドハウスのような高級マンションでは珍しいことですが、ここへ引っ越して来てわずか
な間に浦上千春は隣人である佐原幸恵と急激に親しくなりました。互いに相手のことが気に入ったよう
で、親子ほどの年齢差があるにもかかわらず、実の親子でもここまでは無理と思われるほど互いに心を
許す仲になりました。

潮時が来ると、とめどなく男を求める異常な体のこと、売春のことはさすがに話せませんでしたが、独
身時代の乱れた男関係、そして、最近になって、昔の情夫、佐王子との関係を夫公認で再開したことな
ど、千春は幸恵にすべてを話しました。驚きながらも、決して非難するわけでもなく、幸恵は千春に一
定の理解を示しているのです。

この日も、幸恵は千春の家を訪問しています。今日は佐王子が来る予定日なのです。いつもであれば、
そのことを幸恵に告げ、千春は彼を一人で待つのですが、この日は何か目論見があるようで、彼が来訪
する予定時間まで幸恵を自宅にとどめておきました。

「幸恵さん・・、この人がこの間お話した、主人公認の私の愛人…、
女たらしで、Y市で風俗店を経営しているヤクザさんなの・・・」

とんでもない紹介の言葉に佐王子が苦笑しています。もちろん、以前から聞かされているので、幸恵は
驚いていません。

「佐王子さん・・、この方がお隣の幸恵さん・・。
淫らで、だらしがない私の後見人なの・・、
厳しいけれど、それなりに私の立場を認めて、女の道を教えて下さるの・・・」

幸恵が満面に笑みを浮かべ頭を下げています。佐王子も礼儀正しく対応しています。それでいて、なぜ
千春が幸恵と合わせたのか、そのわけを考えていたのです。

「保さん…、
私が全部話したから、
私と主人、そしてあなたとの奇妙な関係・・、
過去に関係した男達のこと・・・、
私の秘密をみんな、幸恵さんは知っているよ・・・」

千春の言葉に佐王子は驚いています。女同士の仲は佐王子にはなかなか理解できないようです。

「今日もこの人に抱かれることになる…、
この人わね…、
女にとって、とっても危険だけれど・・・、
それでいて、忘れきれない男・・、
一度この人の味を知ったら女は地獄に落ちるしかない・・・、フフ・・・・」

幸恵も、佐王子も笑いながら、顔を見合わせています。千春の紹介の言葉を聞いて、佐王子は二人の女
が、何でも話し合える特別の関係にあることを察知して、そんな人が千春の近所に居ることを心から喜
んでいたのです。幸恵は幸恵で、佐王子を見て、千春の夫、浦上がこの人ならと見込んで、千春の愛人
として選んだ人物であることを確認して、安どしていたのです。

「幸恵さん・・・、
先日ご相談を受けた旦那様のこと・・・、
この人なら、良い解決策を見つけてくれると思う・・、
幸恵さんさえよければ、思い切って、この人に相談してみてはどうかしら・・」

佐王子はようやく千春の企みを理解していました。この日、偶然の様に幸恵を佐王子に会わせたのは、
幸恵が今抱えている問題を、佐王子に直接相談させるためだったのです。