フォレストサイドハウスの住人達(その10)
16 フォレストサイドハウスの住人達(その10)(280)
鶴岡次郎
2015/02/11 (水) 14:56
No.2651

佐原夫妻には子供がなく、幸恵は実家からかなりの財産を相続し、経済的な理由で佐原にしがみついて
いる必要性は何もありません、夫の変態癖に嫌悪感を持ち結婚生活が続けられないと判断すれば、幸恵
の性格から考えて家出より離婚を選ぶはずだと佐原は考えたのです。

「そうですね…、
確かに・・、おっしゃることには一理あります…。
それでも・・、私は・・・・」

「由美子さん・・・、もういいんです…。
幸恵のことを気遣っていただくのは本当にありがたいのですが・・、
これ以上、由美子さんや、愛さんに・・、
幸恵のことでご迷惑をかけることはできません・・。

皆さんのご協力もあって、
警察へも、探偵事務所へも、打つ手は打ちました。
いずれ、結果が出ると思います・・。
それまでは・・、少し静観してはどうかと思っています…」

「・・・・・・・・」

かなり強い調子で佐原が由美子の言葉を遮りました。幸恵のことを話題にしたくない様子を佐原が見せ
ているのです。佐原の強い拒否反応を見て由美子はたじろいでいました。

「せっかくご親切に、心配していただいているのに、
私としたことが・・、つい興奮して、つれない返事をしました。
お許しください・・」

強い言葉で由美子の心配を一蹴したことを佐原は謝っています。

「いえ、いえ・・・、私こそ・・・、
お辛い佐原さんの気持ちを考えないで・・、
思い付いたままをしゃべってしまいました…。
心無いことをいたしました。お許しください…」

幸恵失踪の件では最初から気を使い、言葉の端々まで気配りしたつもりだったのですが、佐原は由美子
の気づかいを煩わしく思い始めているのです。どんなに気を使っても、当事者以外立ち入ることのでき
ない領域が夫婦の間にあるものだと由美子はいまさらのように反省していました。

「由美子さんと愛さんのには本当に感謝しております。
もし・・、お二人に会っていなければ・・・、
多分・・、私はもっと落ち込んで、
毎日の勤めも出来ない状態に陥っていたと思います・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

由美子たちのおせっかいを佐原はそれほど嫌っていない様子です。先ほどは幸恵失踪の話題を一方的に
打ち切っておきながら、その口が渇かない内に、由美子と知り合いになったことに感謝しているのです。
当惑を隠しきれない表情で由美子は佐原を黙って見つめていました。由美子が当惑していることなど気
にしない様子で佐原は饒舌にしゃべり始めました。

「由美子さん・・、正直に私の気持ちを言います…。
幸恵の失踪はそれ自体私にとって大きなショックですが・・・、
こうして由美子さんとお知り合いになったことは、
私にとって大きな収穫であり、喜びです・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

佐原の気持ちを測りかねていた由美子はここへ来てようやく佐原の本心を理解していました。先ほど由
美子の言葉を強い調子で遮った時、最愛の妻、幸恵のことをこれ以上話題にするのが辛いのだと佐原の
気持ちを思いやった由美子でしたが、しかし、どうやらそうではないことに気が付いたのです。