フォレストサイドハウスの住人たち(その9)
55 フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(265)
鶴岡次郎
2014/12/27 (土) 10:22
No.2633

「その淫乱貞女の老後は酷いモノでしょうね・・

歳をとって魅力がなくなれば・・、
男達から振り向かれることも無くなり、
旦那にも嫌われ、子供から蔑まされ・・・、

結局一人で暮らすことになり、やがて寂しく死を迎える・・・
好き勝手をやってきた女だから、仕方がないことだけれど・・、
それでも、やっぱり寂しいね・・・」

我が身の将来と照らし合わせて、千春が沈んだ声で質問しています。

「そうでもないのよ・・、
結論から先に言うと、80歳を超える天寿をお高さんは全うするのよ・・・。
子供を8人生み落し、その子供たちを全員立派に育てあげるの・・・。
勿論、全部の子供が彼女と旦那様の実子として育てられた・・・」

「・・・・・・」

千春は目をいっぱいに見開いて幸恵を見つめています。彼女自身の将来に一筋の光明を見つけ出したの
かもしれません。

「下級武士だったお高さんの旦那は、お高さんとの結婚を機に、仕事の上でいろいろな幸運に恵まれて、
次第に頭角を現して、藩の重役まで上り詰めることになる。もともと才能があり、人徳の高い人だった
のは確かだけれど、お高さんが藩の重役の何人かと関係を持ち、明らかにその男達の種だと判る子供を
産んだりもしていたから、次郎太は人事面でかなり厚遇を受けることになったのも確かね・・・。

こうして経済的にも恵まれた環境を手に入れたお高さんはその淫乱性にますます磨きをかけ、数多くの
男を受け入れることになった。生理が上がった後も、彼女の男漁りは衰えなかった。死の床に就いた一ケ
月以外、彼女は男を迎え入れることを止めなかったと言われている。

彼女の葬儀には、子供たちをはじめ、関係した男達がたくさん参列し、盛大なお葬式になった。そして、
彼らは心から感謝の気持ちをささげたと言われている。彼女の死を見届けた夫、次郎太は、『彼女は地
上に降りた天女でした・・』と語った・・・・と、その本は最後に語っていた・・・」 

「いいお話ね・・・」

「ところで、この話には女にとってたくさんの教訓が含まれているけれど、
千春さん…、
この中で一番大切な教えは何だと思う・・・・?」

「・・・・・・・・?」

「判らない…?」

「・・・・・・」

「私は思うの・・、このおとぎ話の中で一番大切な教訓は・・・・、
それはね…、
お高さんが、どんな境遇でも、どんな時でも、
全ての男に感謝の気持ちを持ち続け・・、
すべての男を愛し、中でも旦那様を心から愛したことだと思うの・・、

私はそう・・、考えている…、
そして、私自身もそうありたいと願っている・・・
頭では判っていても、なかなか出来ないことだけれどね・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

幸恵が言いたいことを千春は敏感に察知していました。旦那と佐王子、そして千春の上を通り過ぎるす
べての男たちの大きな愛情に感謝の気持ちを忘れないようにせよと、幸恵が千春に言っているのです。

「あなたから聞いた佐王子さんとの関係・・・、
私には十分理解できないことだけれど・・、
私はどんな時でもあなたの応援団になると決めている、

私に出来ることなら何でも言って・・、
出来る限り、あなたを応援するから・・・」

「よろしくお願いします・・」

この日以来、千春と幸恵の関係はさらに強いものになりました。実の親子の関係でも彼女たちの関係に
かなわないと思えるほどの仲になったのです。