フォレストサイドハウスの住人たち(その9)
54 フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(264)
鶴岡次郎
2014/12/24 (水) 17:00
No.2632
記事番号2631に修正を加えました((1)1950_12_24)


「それでね、お話はまだまだ続くのよ・・・。

お舅さん、義弟の三郎太にはご主人が事情を話して、お高さんを抱くことを要請した。事情が呑み込め
なくて最初は尻込みしていた二人だったけれど、事情が分かってくると、決して嫌なことではなく、む
しろ歓迎すべきことなので、男二人は喜んでお高さんを抱くことにした。

こうして、お高さんは同じ家に住む三人の男に交替で抱かれることになった。月の障りがある日以外、
お高さんはいつも誰かを受け入れ、女の喜びを満喫することになった。

一方、男三人は互いに嫉妬しながらも、一人で彼女を独占することは難しいことを良く知っているし、
お高さんが三人の男に分け隔てなく優しく接したから、表面上、三人は争うことをしないで、女の気を
引くことで競い合った。

こうして、一人の女を巡って、あの手この手を使って、三人の男が女の気を惹こうと努力するのだから、
女にとって、ある意味理想郷が出来上がったことになる・・・」

「凄いね…、
家の中では男三人が夜の相手をしてくれて・・・、
外へ出ると十数人の詩吟の会のメンバーから選り取り、見取りでしょう…、
作り話だと思っても、うらやましい・・・。

でも・・・、
詩吟の会のメンバーは夫である次郎太さんを何と思うだろう・・
きっと、『寝取られ旦那』と、蔑んでいるのかもしれない・・」

「それがね…、
次郎太さんの評判は悪くないのよ・・・、
それどころか、お高さんを嫁にしてから、彼はトントン拍子で出世することになるの、
お高さんは彼にとって、飛び切りの「上げまん」だったの・・・」

千春の顔を見てにんまり微笑んで幸恵はこの物語の続きを話し始めました。


通常、人妻と情を通じた男は、その人妻を落としたことを密かに誇りに思い、人妻の夫を腹の内であざ
けったりするのですが、それは男の力が女の力を上回っている時に限るのです。

お高と情を通じた侍達は、圧倒的なお高の女子力を体感すると、自分達がお高を弄んでいるのではなく、
男達がお高の遊び相手にされていることを直ぐに悟るのです。男に抱かれるお高の様子には悪びれたと
ころがなく、ただひたすら喜びを追い求めているのです。そして、やがて・・・、男たちはお高の夫で
ある柏木次郎太の狙いに気付くのです。

〈これほどの女だ、夫一人で満足できるはずがない・・。
彼女の夫はそのことを悟り、妻を自由に泳がせているのだ。
深い愛情がなくては出来ないことだ。
まさに男の鑑だ・・
とても私にはできないことだ・・・・〉

男達はお高の夫、次郎太の立場を理解し、彼を蔑むどころか、逆に、最愛の妻に大きな愛情を注ぐ次郎
太に尊敬に近い感情を抱くようになっていたのです。

「あら、あら、すごいね・・
圧倒的な女子力が男達の思考にも影響を与えたのね・・・」

「旦那様の次郎太は勿論立派な人だけれど、お高さんだって偉いのよ・・。

彼女はどんな男から声を掛けられても、事情が許す限り『嫌』と言わないのよ、言い寄ってくるのは恰
好のいい、若い男達ばかりとは限らないからね、中には禿で、脂ぎったおっさんもいたはずだけれど、
お高さんは愛想よくそうした男達と付き合ったのよ。

一方、こんな乱れた男漁りをしながら、お高さんは陰日向なく働いた、
頭が良くて、人付き合いも良かったから、
周りの女たちの評判も上々の貞女だった・・・」

「そうなの…、見習わなくてはいけないわね・・・

ところで・・、幸恵さん・・・・、

お高さんの話を聞いていて・・・、
私・・・、心配していることがある…
それは私自身の心配とつながるのだけれど・・・・」

それまでのにやけた表情を引き締めて、少し真面目な表情に戻り、千春が不安を口にしています。