フォレストサイドハウスの住人たち(その9)
53 フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(263)
鶴岡次郎
2014/12/22 (月) 16:50
No.2631
一年近く廓に通い詰めるあいだに、最初は次郎太が惚れこみ、ついで彼の熱意と誠実な人柄に高が陥落
し、二人は将来を約束するまでになったのです。
女郎に惚れたということは、最愛の女が他人に抱かれることを黙って受け入れることが絶対条件なので
す。こうした関係を一年足らず続けた結果、自分の知らないところで最愛の女が他の男に抱かれ、悶え狂
っていることを事実として受け入れる習慣を次郎太は、知らず知らずの間に身に着けていたのです。

最愛の女が他の男に抱かれるのを受け入れることに慣れると、次郎太の感情は次の段階に発展していまし
た。一時間前、明らかに他の男に抱かれたお高を抱いて、見知らぬ男が残した愛欲の残骸をお高の中に見
つけて、次郎太はどうしたことか、すごく興奮するようになっていたのです。こうした下地があったから
こそ、次郎太は廓の亭主の話を黙って受け入れることが出来たのです。

「ご亭主殿、ご親切なご助言痛み入ります。お話の内容はよく理解できました。決して歓迎することでは
ありませんが、そのことでお高さんを嫌いになったりしません。お高さんの様子をよく見て、彼女が一番
安楽に暮らせる道を探します。彼女とはどんなことがあっても生涯離れないことを約束します・・・」

廓の亭主は感動で涙を流して、次郎太の両手を握って、何度も、何度も頷いていました。


「そんな事情があったのね…、
お高さんが男を欲しがるのは病気だと解釈したのね…
その考えはある意味で当たっているかもしれない…。
欲望が襲ってくるとどうしょうもなくなるのだから…、

それにしても、病気だと割り切ってお高さんを自由に泳がせながら、
その一方で、妻を深く愛し続ける次郎太はりっぱだね・・・

あっ・・・、もしかすると家の旦那も・・・・・
あっ・・・、そうか、そうなのね…、
幸恵さん…、家の旦那も同じだと判って、私にお高さんの話を聞かせたのね・・

幸恵が黙って頷き、千春がにっこり微笑んでいます。


独身時代、千春もまた裏の仕事で売春稼業をしていたのです。千春は彼女の表の仕事場である高級靴店で
浦上三郎と出会い、互いに一目ぼれをして結婚しました。長女を出産し、その子が幼稚園に通い始めたご
ろまでは絵にかいたような平和な生活が続きました。ところが、その頃から千春は耐えがたい情欲に襲わ
れるようになったのです。

尋常でない情欲の嵐を受けた千春はこの事態を夫に隠し通すことはできないと悟りました。離婚を覚悟し
て、千春はデルドーを使って強い欲望を散らしている痴態を夫に見せつけました。夫に痴態を見せること
で自身の体に起きた異常を知らせることにしたのです。

千春の夫、浦上三郎は驚きながらも、慌てふためくことはありませんでした。佐王子から、いずれ千春は
男狂いを始めると予告を受けていたのです。その予告うけて5年後に、その予告通りの現象が発生したの
です。三郎はためらわず佐王子にそのことを告げ、協力を依頼しました。

浦上から千春の事情を聞いた佐王子はとりあえず昔の愛人関係を復活することにして、千春の情欲を散ら
すべく、夫公認で定期的に千春を抱くことにしたのです。

浦上三郎がつらい決断をして佐王子に千春を預けた経緯がお高さんと同じであることを、千春に教えた
かったのだと、千春ははっきりと悟っていました。そして、いまさらのように夫、浦上三郎の大きな愛
情を千春は実感していたのです。(1)