フォレストサイドハウスの住人たち(その9)
52 フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(262)
鶴岡次郎
2014/12/18 (木) 15:28
No.2630

亭主は次郎太の態度を良しと考えたのでしょう、この男なら亭主のいかがわしい話を正しく受け止める
ことが出来ると感じたのでしょう、彼が持っている情報を時間の許す限り伝えるつもりになっています。

「物心ついた時から、男に抱かれることが生活の全てであった彼女たちは、たくさんの男に抱かれるこ
とにそれほど罪悪感を持たないのです。罪悪感どころか、性交することで彼女たちは安らぎを受け、悩
みを克服する勇気がそこから沸き上がるのだと思います。

言い換えれば、彼女たちにとって、男に抱かれることは生きるための一番大切な手段であり、活力源な
のです。性行為が彼女たちの生活の原点なのです・・・。

ですから・・・」

「ご主人・・、あなたの言われることは大体判りました・・、
お高の体に染みついた、淫蕩な性癖はある程度まで理解できました・・」

廓の亭主の言葉を遮り、次郎太が声を出しました。

「それで・・、私は何をすればいいのですか・・・。
はっきりと、具体的に指図してください・・。
出来るかどうか判りませんが・・、
お高さんのため、私は全力を尽くしたいと考えています・・・」

長い廓生活でお高の体に淫蕩な習性が染みついているところまでは大体理解した次郎太が、なかな核心
に入らない亭主の話に少し焦れています。遠慮してはっきりとした要求を中々口に出来ない亭主に注文
を付けているのです。

「さすが、佐伯様です。私がこの方ならと見込んだお方です。
そのご質問を実は待っていました…」

話の展開を模索していた亭主は次郎太の質問を得て喜んでいます。

「大和太夫が・・、
いえ・・、お高さんが他の男に手を出すようなことが起きれば、
その時は、私が今まで話したことを良く思い出してください・・・。

男に手を出したのは、勿論、その男に惚れたわけではないのです。
あなた様を裏切るつもりなど、端からお高さんにはないのです。
言ってみれば、それはお高さんの持病なのです」

「病気だと・・・・・・・・?」

「はい・・・、その通りです。病気に罹っているのです…。
病気であれば、治療する必要があります。彼女の体が男を欲しているのですから、
無理に抑え込むと病気は悪化します。適当に男を与えることが必要です。

勿論、妻が他の男に抱かれることは耐えがたいことです。
堪えがたい思いは、お高さんにとっても同じことです、
病気とはいえ、他の男に抱かれるのは、大切な旦那を裏切ることになり、辛いことだと思います。

お高さんを愛し、生涯、妻として彼女を大切にしていただく覚悟がおありなら、
お高さんの望むまま男を与えてください。
そしてここが大切なことですが、その秘密をあなた様が守り抜くのです。
決して、そのことで、お高さんが周りの者から後ろ指をさされることがあってはならないのです」

「・・・・・・・」

大変な話なのですが、次郎太は驚きもせずじっと耳を傾けています。

「よろしいですか、くどいようですがもう一度繰り返して申し上げます。
関係した男達と共謀して、あなた様がお高さんの秘密を守り切る限り、
あなた様ご一家の安泰は保証されると思います。

あなた様の寛大な愛情に応えるため、お高さんはあなたに全力を尽くして奉仕すると思います。
十数年、廓で磨き上げた女の技を惜しみなくあなた様に注ぐのです。
あなた様は男としてこの世で望みうる最上の悦楽をお高さんより与えられることになります。

私の話を理不尽なありえないお伽話だと思わないで、信用してください。
頑張れば、きっと素晴らしい未来が広がると思います・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

あまりの話に次郎太は絶句していました。しかし、次郎太は決して絶望していませんでした。むしろ、
女郎を娶った以上、このようなことは起こりうることだと比較的冷静に受け止めているのです。