フォレストサイドハウスの住人たち(その9)
50 フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(260)
鶴岡次郎
2014/12/16 (火) 15:00
No.2628
次郎太の顔をじっと見つめて、おもむろに亭主は口を開きました。

「ここでは男に抱かれることが女たちの生活の全てです。
男達によって刻み込まれた記憶が・・、
彼女たちの心と体にずっしりと残るのです。

それはどんなことをしても拭いきれないのです。
年季が明けて普通の生活に戻った時、
その傷跡が突然鮮明に女たちの中で疼きはじめ・・、
やがてその疼きは嵐のように彼女たちの体の中で暴れまわるのです」

「男たちに抱かれた記憶がいつまでも残っていて、
その記憶が家庭に入ってからも女の血を騒がせる・・・、
そういうことですか?・・・」

「ハイ・・・、どんなに足掻いても、
心と体に残された男達の記憶から彼女たちは逃げられないのです。

言い換えれば、嫁ぎ先でご主人に十分抱かれていても、
それだけでは、彼女たちは満足できない身体を持っているのです。
勿論、個人差はありますが、間違いなく、
一般の女たちとは比較にならないほど、彼女たちの情欲は強いのです」

「その話なら聞いたことがある。以前、遊び人の先輩から聞かされたことがある。客商売を長くしてい
た女と付き合うと、男を喜ばせる術をたくさん知っていて貴重だが、少しでもかまわないで放っておく
と、浮気に走り、とんでもなく男狂いするものだと教えられたことがある。だから、そうした女を妻に
することは勿論のこと、深い付き合いもしない方が良いと言われたことがある。

確かに・・、お高さんもそうした女の一人だと言える・・・。
その時は、私は・・、身を呈して彼女をかわいがるつもりだ、
これでも体力では人に負けない自信があるからね・・、ハハ・・・・・・」

酒の席での艶話を次郎太は思い出しているのです。高にも同じような問題が起きるだろうと次郎太は廓
の主人の言葉をその程度に理解したのです。しかし、この時点でも次郎太は問題の本質が判っていな
かったのです。廓の主人はそんな次郎太を哀れっぽい目で見つめ、さらに衝撃的な内容を告げたのです。

「柏木さん・・・、そんな生易しいモノではありません。
情欲が襲ってくると、ある者は自暴自棄になり、
手当たり次第に男を漁り始めます。

また、ある者は欲望と自制心の板挟みになり、
絶望して自分の肉体を始末することになるのです・・・。

この二つの道以外の生き方を彼女たちは選べないのです・・・・」

「えっ・・、何と言った…
手当たり次第に男漁りをするか・・、自害をするか・・、
お高さんには二つに一つの道しか存在しないと言うのか・・
私がどんなに頑張っても、それでは焼け石に水だと言うことなのか・・」

「ハイ・・・、
廓を出て嫁いだたくさんの女達を見て来た私は・・、
そう理解しております・・・・」

「・・・・・・・」

次郎太が両膝を握りしめ、絶句しています。何かに必死に耐えている様子です。