フォレストサイドハウスの住人たち(その9)
49 フォレストサイドハウスの住人たち(その9)(259)
鶴岡次郎
2014/12/15 (月) 11:35
No.2627

須藤は上機嫌で若い二人を交互に見ています。見れば見るほど似合いの二人なのです。それでも須藤は
手放しでは喜べない複雑な思いを噛み締めていました。

女郎と主持ちの侍、普通でない婚姻を決断した二人には、この先、たくさんの苦難が待ち受けているは
ずです。二人のために出来限りのことをする気持ちを須藤は密かに固めていました。そして先ほどから
考えていることを実行に移すべく、口を開きました。

「それで・・・、これからの段取りですが・・、
お高さんと、ご主人さえ異論がなければ、
お高さんを須藤家の養女に迎え入れ、
須藤家から嫁に出してはいかがかと思っているのですが・・、
いかがなものでしょうか・・・?」

「そうしていただければ、これ以上のことはありません…、
何から何までご配慮いただき感謝の言葉もございません・・」

廓の亭主が頭を何度も下げて感謝していました。高は感激で言葉も出せない様子です。次郎太は須藤に
深々と頭を下げて感謝しております。須藤家の養女になれば、お高のことを誰も女郎出身の女だとは思
いません。全てがリセットされ、高は晴れて武家の娘として柏木家に嫁入りするのです。

須藤が上機嫌で廓を出た後、菊の屋の主人、正衛門が次郎太を一人別室へ連れて行き、次郎太が席に着く
や、真剣な表情を浮かべ語りかけました。

「あの娘(こ)は、12歳から10年以上、数知れない男に抱かれてきました。
男に抱かれることがあの娘(こ)の生活のすべてだったのです。
それで、普通の女に比べて、かなり異質な貞操観念を持つようになっています。
このことはよく承知おきください・・」

「勿論、女郎を嫁にするのだから、昔の男関係をとやかく言うつもりはない・・」

「柏木様…、そうではないのです・・!
過去の男性経験を責めないようにしていただくのは勿論ですが、
私が申し上げたいのは、過去のことではないのです・・、
婚姻後に起きるであろう問題についてです・・・」

廓の亭主のやや強い調子の言葉に次郎太がすこし驚いています。

「こうした稼業をしておりますので、私はたくさんの遊女を一般家庭へ主婦として送り出してきました。
そして、必ずと言っていいほど、彼女たちが遭遇する問題を、たくさん見て来ました・・・」

ここで廓の主人は言葉を止めて、じっと次郎太の顔を見つめました。何を聞かされるのか皆目わからな
い表情を浮かべ次郎太は主人の顔をぼんやりと見ていました。