フォレストサイドハウスの住人たち(その8)
23 フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(211)
鶴岡次郎
2014/08/23 (土) 11:45
No.2572

夫公認で抱かれることになり、いわばその愛人契約条件を真剣な表情で話す全裸の千春に佐王子は
見惚れていたのです。裸の女が男を誘う手管には慣れきっている佐王子ですが、裸であることを忘
れたように真剣に話しかける千春にはそれまで経験したことが無い不思議な魅力があったのです。
千春の言葉で我に返り、少し慌てて返事をしています。

「エッ・・、ああ・・、勿論、その通りだ、
千春の言い分が通らなかったらこの話は無しだ・・
ご主人も、もちろん私も、千春の嫌がることは絶対しない・・」

佐王子らしくもなく、偶然垣間見せた千春の新しい魅力に心を奪われ、返事を忘れていたのです。

「ありがとうございます。それを聞いて安心しました。それでは申し上げます。

以前、佐王子さんに抱かれている時、何時、佐王子さんから結婚を申し込まれるのかと、私は心を
弾ませて待っていました。妻にしていただかなくても、愛人関係をはっきりさせていただくだけで
もよかったのです。

『千春は俺の女だ・・』とはっきり約束していただけるだけで、良かったのです。しかし、私の気
持ちが判っているのに、佐王子さんは最後まで、誘いの言葉をかけてきませんでした。今でも、そ
のことでは佐王子さんを恨んでいます・・」

いたずらっぽい表情で千春が語っています、佐王子が困った表情で千春を見ています。

「現在では、ご存じのように私は人妻で、子供も一人います。
主人を心から愛していますし、子供と主人を守るためなら、私は自分の命など惜しいとは思いま
せん。以前とはここが違うのです。私には守るべきものが出来たのです」

誇らしげな表情で千春が語っています。

「保さんに抱かれると、多分、私は夢中になり、保さんと離れたくないと思うようになるはずです。
もしかすると、今の生活を捨てて、保さんの懐に飛び込もうとするかもしれないのです。こんな自
分の変化が、私は怖いのです・・」

「・・・・・・」

おそらく本音を千春は語っているのだろうと佐王子は理解していました。それでも男は黙って頷い
ているだけでした。

「そこでお願いがあるのです。
もし・・、私が保さんに夢中になり、今の家庭を忘れるようなそぶりを少しでも見せたら、その時
は、私を殴りつけてもいい、乱暴な言葉を吐いても良い、考えられる限り汚い言葉で私をののしり、
私をボロ布の様に捨ててほしいのです・・。

早い段階なら、元に戻れると思うのです…」

「・・・・・・・・・・・・」

唖然として佐王子が千春を見つめています。千春は真剣そのものです。

「佐王子さんは男だから、女の私より、理性的に行動できると思っています。
それに、佐王子さんにも守るべきものがたくさんあるはずです。
いまさら、私ごとき女のために今の生活を捨てる気持ちは持たないと思います。
だから、佐王子さんにお願いするのです・・。
今の家庭を守るため、ぜひ、私の願いを聞き届けて下さい・・」

「判った・・、千春の覚悟が良く判った…、
千春の言った言葉はそのまま、私自身の自戒の言葉にするよ。
千春を俺のモノにしたくなったら、俺は黙って千春から離れることにする。
勿論、千春が旦那や子供を捨てることは絶対許さないつもりだ・・」

こうして、好意を抱きながら、互いの意に反して別れて暮らしていた男と女が、再会し、男と女の
関係を復活する奇妙な愛人契約条件を取り交わしたのです。両人ともに凄まじい能力を秘めたその
道の達人です。迸り出た愛液があたりに立ち込めるほどすごい情交がこれから展開されると思いま
すが、果たして今取り交わした口約束がどこまで守られるか・・、どちらが先にこの約束に違反す
るか、じっくりと見守っていくことにしたいと思います。

そして、千春と佐王子がこの契約を交わしたことにより、佐王子はSFマンションに頻繁に出入り
するようになり、このマンションに住まう幾人かの女が佐王子の牙にかかり、それまでとは異なる
女の道を選ぶことになるのです。その経過についてはすでにいくつかエピソードをそれぞれ個別に
紹介しておりますが、これから先に紹介する話も含めて、いずれ整理して、それぞれのエピソード
の相関関係を明らかにするつもりです。