フォレストサイドハウスの住人たち(その8)
21 フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(209)
鶴岡次郎
2014/08/21 (木) 13:43
No.2570

「概略を電話で聞いたのだが、とても込み入った話なので、
その場で結論を出せなくて、日を改めて面談することにした・・。
それが今日だった・・・、
この近くのレストランで話し合いをした・・・」

「きっと、私のことでしょう・・」

「・・・・・・・」

佐王子が黙って頷いています。

「それで保さんは・・
どう答えたの…」

「どう答えるて…」

「とぼけないで、私には判っているのよ、
保さんを見た時ピーンと来た・・・、
私のことを保さんに頼んだのでしょう…」

「・・・・・・・」

佐王子は千春の勘の鋭さにびっくりしていました。この調子ではすべて見通されていると覚悟を決
めていました。

「相変わらず勘の良い子だ・・、
今から話すことはお二人にとって、とっても大切なことだから、
話の先が読めていても、一通り、私の説明を黙って聞いてほしい・・。
それほど大切な話なのだ・・・」

佐王子の真剣な様子を見て、事の重大さがわかったのでしょう、千春が黙って頷いています。

「千春・・・、
ああ・・、二人きりの時は、これからも千春と呼ばせてほしい・・

ご主人と話し合っていて、判ったことなんだが…、
浦上さんは千春のことを本当に大切に思っているようだ・・。
多分、ご主人は千春をこの世で自分の命より大切だと思っているようだ。

これから先、どんな事態が発生しても、
ご主人の千春への愛情を疑ったりしてはいけない。
このことを、千春はしっかり頭に刻み込んでほしい・・」

千春が笑みを浮かべて頷いています。

「千春が想像しているように、ご主人から千春を定期的に抱いた欲しいと、今日、正式に申し込み
があった。ご主人一人ではとても千春を満足させること出来ないとおっしゃるのだ」

予想していたこととはいえ、浦上が佐王子に正式に申し込んだことを聞き、千春は驚きを押さえる
ことが出来ませんでした。

「以前付き合っている時感じていたのだが、千春は一人の男で満足できる女でないと思っていた。
誤解しないでほしいのだが、千春が見境なく男漁りをする女だと言っているのではない、むしろ、
逆に千春はとても貞操観念の強い女だと思っている。それだけに、一人の男に縛り付けると、自分
の欲望と強い貞操観念の板挟みにあって、精神に異常をきたすほど悩む可能性が高いと思っている。
このことは俺も、浦上さんも、同じ意見だ・・」

佐王子は熱心に語りかけました。千春はどのような気分でこの話を聞いているのでしょうか、見る
限りではおとぎ話を聞いているように、おだやかで、明るい表情で耳を傾けています。 

「ご主人は、千春さえ同意すれば、定期的に千春を抱いて良いと言われている。
幸い、俺の仕事は夜が中心だから、昼間、このマンションに来て務めを果たしてほしいと指示され
た。勿論、俺にとってはこちらからお願いしたい気持ちが正直なところだから、一も、二もなく、
その場でお引き受けした次第だ・・・、
こんな事情だが、どうだろう、千春の気持ちは…」

恋する少年の様に、素直な、それでいて、男のねばりつくようなギトギトした執念を、その瞳の奥
に見せて佐王子が千春を見つめています。千春は相変わらず捉えどころのない表情で佐王子を見つ
めています。