フォレストサイドハウスの住人たち(その8)
19 フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(207)
鶴岡次郎
2014/08/11 (月) 16:21
No.2568
20畳ほどの居間に革張りのソファーがあり、大型テレビもここでは小さく見えます。ソファーに
腰を下ろし佐王子はゆっくりと部屋の中を見渡しました。床に敷き詰めた絨毯の上にいくつかの幼
児用玩具が転がっているのが愛嬌です。

千春と別れて以来、佐王子は彼女のことを一日だって忘れたことがありません。浦上家の周りにア
ンテナを広げていて、それなりに浦上家の情報は掴んでいるのです。千春の退職、長男の出産、F
Sハウスへの転居、浦上の部長昇格、浦上家のことはかなりのところまで掴んでいるのです。そし
て、千春が幸せな生活を送っていることを心から喜んでいたのです。

そんな時、突然浦上から電話連絡を受け、千春が底知れない情欲に取りつかれ、悩まされているこ
とを知らされたのです。当然、いつかはこの日が来ることを佐王子は予想していたのですが、いざ、
それが現実になると、佐王子は慌てました。狼狽える自身をしかりつけながら、佐王子は必死で対
応策を練りました。

何を置いてもまず浦上が千春の症状を正確に理解し、彼一人の力では千春の症状に到底対応できな
いことを彼自身の体で学び取ることが大切だと佐王子は考えたのです。それで、一週間、千春に奉
仕することを浦上に命じたのです。

浦上は頑張りました。並の男では一日か二日で音を上げていたでしょう、一週間、とにかく頑張り
通したのです。その結果、浦上は自身の無力さと千春の人間離れした情欲をよく理解したのです。
そして、この先、千春と一緒に生活をするためには、どんなに嫌でも、どんなに堪えがたいことで
あっても、千春に他の男を与えることが必要だと悟ったのです。

浦上から千春を抱くように依頼された時、佐王子は慌てました。予想さえしていなかった浦上の申
し出を聞き、嬉しさと、驚きで、言葉を失っていたのです。しかし、冷静になって考えると、浦上
の申し出はそれほど意外なことではなかったのです。過去の経緯を考えると、佐王子が対応するの
が一番簡単で、安全なことは自明のことなのです。

〈ああ・・、俺も焼きが回ったかな…、
千春のことを今でも忘れられなくて、俺の目が曇っていたということか・・〉

佐王子は自嘲的にそうつぶやいていました。

〈待てよ…、あいつ…、千春には何も告げなかったが…、
そうか・・、すべて俺に預けて、
酔ったそぶりを見せて、あいつは寝てしまったんだ…、
さて・・、どうすればいいのだろう…〉

その昔、手玉に取った千春ですから、どこを吸い、どこを擦れば、どう鳴くか、女の体の隅々まで
知り尽くしているのですが、人妻になった千春は、今では遠くに立つ女なのです。黙って抱き寄せ、
口を吸えば喘ぎだし、簡単に靡いた女ではなくなっているはずなのです。


千春がダイニングルームに戻ってきました。大男の浦上を相手にかなり奮闘したのでしょう、前髪
が乱れ、額にうっすらと汗がにじみ、髪の毛が額に張り付いているのです。来客を予想していな
かったのでしょう、胸のところが大きく開いた薄手で、ミニの花柄ワンピースの下はどうやらNB
らしく、豊かな乳房の半分以上が顔を出し、授乳経験のある黒い乳首がくっきりと布を押し上げて
いるのです。

その昔、その景色は見慣れているはずなのですが、久しぶりに接する佐王子には新鮮に見えました。
少年の様にその光景から慌てて視線を外しているのです。

「ああ・・、疲れた…、
背広を脱がせるだけで大仕事だった・・、
あの様子では朝までぐっすりネ・・・・、

保さん…、
今夜は泊まって行けるのでしょう・・」

久しぶりに名前で呼ばれて佐王子は少し慌てています。