フォレストサイドハウスの住人たち(その8)
16 フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(204)
鶴岡次郎
2014/07/29 (火) 12:20
No.2564

視線を床に落とし何事か考えに耽っていた浦上が、覚悟を固めた様子をその表情に見せて顔を上げ
ました。

「佐王子さん・・、千春のことをよくご存じですし、彼女のことを今でも、大切に思っていただい
ていることを私はよく承知しております。ここは経験豊富なあなたに頼るのが一番いいと私は考え
ております。

私は何よりも、千春と我が子の幸せを優先したいのです。
そのために私自身が辛い思いをすることは何とか凌げると思います・・・、
あなたがいいと思われる方法を教えてください・・・」

絞り出すように浦上が声を出しています。

「判りました・・。
浦上さんの決心がそこまで固いのであれば、
ご家族の皆さんの幸せのため、ひと肌も、ふた肌も脱ぎたいと思います。

一つ伺いますが、千春さんが気心を許せる男性をご存じないですか、そうした方が居れば、その方
にお願いして、定期的に千春さんの相手をしていただけるようお願いするのです。それで、かなり
千春さんの心身は安定すると思います」

「一人・・・、心当たりがあります・・」

「そうですか・・、それならその方にお願いするのが一番です。
こんな話なので浦上さんから声をかけるのは難しいでしょうから、
よろしければ私が交渉役になっても構いません。

ところで・・・、その方はご近所にお住まいなのですか・・・」

「佐王子さん…、
千春も、そして私も心を許せる人は・・、
それは、佐王子さん、あなたです…。

こんな難しいことを頼めるのは、あなたを置いて他には考えられません、
お仕事が忙しいと思いますが、千春のため、私たち家族のため、
お力を貸していただけませんか・・・」

「・・・・・・・・」

冷静に考えれば、浦上の選択はこの場の状況を考えると、ごく妥当なものだと思いますし、当然佐
王子もそのことをある程度予想すべきだと思うのですが、意外なことにこの依頼を佐王子は予想し
ていなかったようで、驚きで言葉を失っているのです。