フォレストサイドハウスの住人たち(その8)
15 フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(203)
鶴岡次郎
2014/07/22 (火) 14:38
No.2563
真剣な面持ちの浦上を見て、佐王子が少し笑みを浮かべています。そして、おもむろに口を開きま
した。

「ついにその時が来ましたか…、
正直申し上げて、もっと早くやってくると私は予想していました。

おっしゃる通り、連絡を受けてすぐに対応するべきだと思いましたが、
一週間の間を取ったのは、その間に・・・、
浦上さん自身の体で奥様の実態を十分察知してほしいと思ったからです・・」

沈痛な口調で佐王子が話しています。しかし言葉の内容とは裏腹に、佐王子はなんだか嬉しそうな
表情を浮かべているのです。

「以前申し上げたように、奥様は千に一人、万に一人と思えるほど、性感に恵まれた方です。彼女
の中で湧き上がる情欲は凡人には計り知れないものだと思います。もしこの欲望が暴走し始めると、
彼女自身でも、これを制御することは難しいと思います。感情を暴走させないよう、彼女の欲望を
適当にその都度、分散発散させることが絶対必要です。

これまでその兆候が目立たなかったのは子育てに彼女の精力が向いていたからだと思います。子育
てが終わり、いろいろな束縛から解き放たれ、彼女が持っている能力が、ここへきて大きく、花開
いたのですね…、もう・・・、誰も彼女を止めることはできません…」

佐王子が、沈痛な面持ちでつぶやくように言いました。落胆の表情を浮かべ、浦上がじっと佐王子
の表情を読んでいます。

「今はデルドーで一時しのぎが出来ていますが、
いずれ本身でないと満足出来なくなると思います・・。
浦上さんは並以上に強い男ですが、
正直申し上げて、あなた一人では到底、無理だと思います・・・」

「・・・・・・・」

浦上が沈痛な表情で黙って頷いています。一週間千春の相手をして、浦上は千春の底知れない情欲
を体験したのです。どんなに頑張っても、到底一人では太刀打ちできないことを悟ったのです。
もし、この一週間の経験がなければ、男の能力を否定する佐王子の言葉に浦上は反論したかもしれ
ないのですが、今は大人しく頷くことしかできないのです。

「もし・・、このまま何もしないでいれば、
妻は・・、そして僕の家族は・・、どうなるのでしょう・・」

「はけ口の見当たらない、異常な情欲と・・・、
あなたに忠実でありたいと願う愛情の狭間で悩みぬき・・・、
奥様は・・、多分・・、平常心を失うことになると思います・・。
そんなことになれば、平和な家庭に影が差し込みます・・」

男欲しさに体を燃やす千春は、外で男を求めることが出来ないまま、悩み、葛藤して、精神的にも、
肉体的にも、大きなダメージを受け、それが平和な浦上家に影を落とすことになると、佐王子は指
摘しているのです。

「千春に男を与えればいいのですか…?」

「奥様が他の男に抱かれることを浦上さんが快く許し、千春さんが精神的な大きな負担や、度を越
した罪悪感を持たないで、他の男に抱かれることが出来れば、問題はかなり改善されると思います。

それには、浦上さんの辛い決心と、そうした淫らな環境を受け入れるため、奥様の気持ちの整理が
必要だと思います・・」

佐王子が言葉を選びながら、慎重に答えています。浦上はじっと考え込んでいます。男にとって、
かなりつらい決断を迫られているのです。勿論、佐王子が出したこの結論は、浦上にとって、あら
かじめ予想できたことだったのです。