フォレストサイドハウスの住人たち(その8)
14 フォレストサイドハウスの住人たち(その8)(202)
鶴岡次郎
2014/07/19 (土) 15:17
No.2562

そして、一週間が経ちました。指定されたレストランはFSハウスから徒歩で10分ほどのところ
にありました。泉の森公園に面して、ホテルや、ビジネスビル、そしてマンションなどの高層ビル
が建ち並んでいるのですが、そのレストランはそうした高層ビルの一つで、一階に大手都市銀行の
支店があるビジネスビルの地下2階にあるイタリアンレストランでした。

仕事をいつもより少し早めに切り上げ、会社を出た浦上は、30分ほどで自宅に最寄りの私鉄駅に
着きました。ここから自宅マンションまでは歩いて5分足らずです。浦上は自宅とは反対方向に歩
を進め、5分足らずで目的のビルに着きました。そのビルの地階にあるレストランに入ると、一番
奥にあるテーブル席に座っている佐王子が右手を挙げて合図を送ってきました。

「お忙しいところ、ご迷惑だと思いましたが、
何を置いても、気が付いたら直ぐに連絡するよう言われていましたので、
とりあえず連絡を差し上げた次第です・・・」

数年ぶりの再会ですが、二人の男は挨拶もそこそこに本題に入りました。10日足らずの海外出張
から帰ってきた浦上が千春を抱いて違和感を感じ取ったこと、そして、デルドーを愛用するように
なっていた千春がびっくりするような性欲を見せつけたことなど、電話では話しきれなかったこと
も含め、浦上は何も隠さず説明しました。佐王子はただ黙って耳を傾けていました。

「・・・・、このような次第です。
正直言って、以前から千春の強い情欲を時々もてあますことがありました。それでも、出張前まで
は、何とか私の力で彼女を満足させることが出来ていると自負しておりました。

しかし、海外出張から帰って来て、何が原因かは未だに良く判りませんが、彼女は一段も、二段も
成長していることが判りました。これは大変だと思って、慌てて佐王子さんに連絡したのです。

千春のことをよくご存じの佐王子さんのことだ、私が連絡した翌日は無理でも、二、三日後にはお
会いできると思っていたのです。それが、意外にも佐王子さんは一週間後の面談を指示しました。

その時も申し上げたのですが、私は出来るだけ早く佐王子さんと面談して、千春への対応策を相談
したいと思っていたので、少しがっかりしておりました。私たち夫婦・・、いえ、私の追いつめら
れた緊急事態をよく理解していただけなかったのだと思いました。

しかし、一週間たった今、ようやく佐王子さんの本当の狙いが判るようになっています・・・」

公園で佐王子に連絡を入れてから、佐王子と面談すると約束したこの日までの一週間、浦上はほと
んどの精力を千春に注ぎました。勿論、昼間は出勤したのですが、仕事はほどほどにして、できる
だけ早めに帰宅して、千春と過ごす生活を優先させたのです。しかし、この努力は、結果として、
すさまじい千春の情欲を改めて浦上が認識する役目しか果たさなかったのです。

毎日優しく抱いてくれる浦上に千春は勿論、感謝していました。そして、抱かれれば、驚くほどの
反応を毎回見せつけ、抱かれれば、抱かれるだけ、燃え上がるのです。浦上から見れば、千春の体
は何度頂点に駆け上がってもその終点が見えないのです。そして、もっと強い男であれば、千春を
もっと高いところへ導くことが出来るのではないかと、あらぬ妄想を抱くようになっていたのです。

浦上はほとほと参っていました。このままでは、仕事も社会生活もすべて犠牲にして千春に奉仕し
ても、彼女を満足させることはできないと、追い込まれた心境に陥っていたのです。

「一週間たって、気が付いたのですが、佐王子さんの本当の狙いは別のところにあったのですね。
佐王子さんが指示したこの一週間は、私が自分自身の力を知り、とても千春には対抗できないこと
を悟るための時間だった・・・。
そして、私が男の誇りを捨て、心の迷いを消し去り、千春と一緒に生活するために必要なあらゆる
対策を実行する覚悟を固めるための時間だった…。

この一週間の苦労を思えば、この先佐王子さんから出される一見受け入れがたい提案も易々と飲み
込むことが出来るようになる・・、この一週間は、いわば私の研修期間だった…。

そう思ったのですが・・、間違っていますか・・・・」 

「・・・・・・・」

佐王子が黙って頷いています。