フォレストサイドハウスの住人たち(その7)
24 フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(188)
鶴岡次郎
2014/06/18 (水) 16:13
No.2546

夫人の告白を聞きながら、千春は自分が持っている情報を重ね合わせて、なぜ浦上が重度のEDに
陥ったのか彼女なりの分析をしていました。夫人は義母である身を忘れて破廉恥な行為を仕掛けた
自身の罪だと考えているのですが、千春は夫人のせいとは思っていないのです。夫人とのあの行為
をくよくよ悩み、それでEDに陥るほど、浦上は弱い男でないと思っているのです。このままでは
夫人が哀れだと思う気持ちが強くなり、千春の立場からそのことに触れるのは問題だと思いながら、
勇気を奮って口を開きました。

「奥様・・、三郎さんのEDのことですけれど・・、
奥様はご自分一人の責任だと思い込まれていますが、
私は、少し違う考えを持っています…」

「千春さん・・、
私のことを思って慰めていただけるあなたの気持ちはありがたいと思います。
三郎さんがEDになった原因は、あなたも気が付いているようですが、
おそらく、複数の要因が存在すると思います。
しかし、その中の一つが私の汚い行為であることは間違いない事実です。

彼の発症が私の責任だと言っても、それは私の気休めだけで、
今となっては、償うことも、謝ることさえも出来ないのです。

三郎さんのこれから先のことは千春さんにお願いするより他に手はないのです。
本当に申し訳ないのですが、彼のことをよろしくお願い申します・・」

「ハイ・・・・・」

千春は夫人に自身の意見を告げる気になったのですが、浦上のEDのことになると夫人はただ頭を
下げ、許しを請うかたくなな姿勢を崩さないのです。この様子では、この場で千春の分析結果を披
露しても、自身の罪だと思い込んでいる夫人が千春の言葉を正しく受け取らず、単なる慰めの言葉
と受け取る可能性が高いと考えたのです。慰めと誤解されると少し厄介なことになると思い、千春
は黙り通すことにしました。もし、夫人がそのことで深刻に悩み続ける様子であれば、機会をとら
えて、浦上から説明するのが一番だと千春はとっさに考えたのです。

千春の分析では、浦上のEDは夫人の破廉恥な行為のせいではなく、理恵との結婚生活を充実した
ものに出来ないまま、理恵と死別してしまったことに対して浦上は強い罪悪感を持ち、男として一
人の女を幸せにできなかったことに自信喪失した結果、重度のEDに陥ったと千春は考えているの
です。

客観的に見て、千春の分析結果に説得力があるように思えますが、本当のところは、どちらが正し
いのか、あるいはまったく別の要因が作用しているのか、良く判りません。

いずれにしても、これから先、よほどのことが起きない限り、千春はこの問題を自分から掘り起こ
すことはしないと覚悟を固めていました。今日、夫人が口にした事実全てを封じ込むつもりでいる
のです。


「あぁ・・、ご主人と三郎さんが迎えに来ています・・
女の長い立ち話に痺れを切らしたようですね…」

先に駅に着いていた塚原氏と浦上が歩み寄ってくるのを見て、千春が声を出し、男たちに手を振って
います。

「千春さん・・、今日は楽しかったわ…、
結婚生活を楽しんでくださいね…、
またお会いできるといいですね…
それと・・・」

塚原夫人が千春の耳に口を寄せて何事かささやいています。千春が口に手を当てて恥ずかしそうに
笑って夫人を見ています。『大物を食べ過ぎて、体を壊さないように・・・』と、夫人が囁いたの
です。

「それでは・・、またお会いできる日を楽しみに待っています・・。
奥様・・、ご忠告通り、大好物を食べ過ぎて体を壊さないように、頑張ります・・」

千春と塚原夫人はにこやかに笑みを浮かべて別れのあいさつを交わしました。