フォレストサイドハウスの住人たち(その7)
23 フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(187)
鶴岡次郎
2014/06/17 (火) 11:41
No.2545
夫人はそこで口を止めました。そこから続く二人の絡みを予想していた千春は、女の情欲に溺れ、
禁断の行為に走った夫人の告白を聞かざるを得ない困惑と、すこし淫らな期待とわずかな嫉妬心を
抱きながら再び夫人が口を開くのを待っていました。

「そこまでだった・・・。
正直言って、欲しかったけれど・・・、
いくら何でも娘の夫と関係を持つ・・、
そんな獣のような真似はできませんからね・・」

そう言って、夫人は千春に寂しい笑みを投げかけました。千春も軽く頷いて夫人の意見に同意して
います。冷静に対処した夫人の行動に千春は内心で拍手を送っていたのです。

「私がそれ以上何もしないことを察知したのでしょう・・、
彼は大きくなったモノの始末にトイレへ駆け込み、
私はただ茫然とその場に座っていました・・・。

彼が洗面所から戻り、何やら呟いて頭を下げて、私の前から去りました。
それ以来、彼から連絡もなく、私からも連絡しませんでした。

三郎さんはこの日のことを理恵にはしゃべらなかったと思います、娘は私の破廉恥な行動を知らな
いと思います。それでも、何となく理恵に申し訳なくて、それまで頻繁に彼らの家を訪ねていた私
でしたが、その事件以降、彼女たちの家に行く気になれなかった。

私に会うのが辛いのでしょう、三郎さんは実家には来なくなり、理恵はもともと実家に寄り付くタ
イプでありませんでしたから、二人が実家を訪ねることはありませんでした。こうして、私の無分
別な行動が私と娘夫妻の間に決定的な壁を造ってしまったのです・・」

淡々と話していますが、夫人の瞳には涙があふれているのです。

「その後まもなく理恵の癌が見つかり、あっけなく、あの子は旅立ちました。結局、三郎さんとは
気まずい思いをしたまま今日まで来てしまったのです。彼が重度のEDに罹っていたなんて夢にも
思わなかった。あなたの話を聞いて初めて私は重大な過ちを犯したことに気が付いたのです。

私とのあの忌まわしい行為にまじめな三郎さんはずっと罪悪感を抱いていて、その罪を理恵に告白
する前に彼女が亡くなり、罪悪感の捨て場を失った三郎さんは一時的なEDに陥った。そうに違い
ないと私は思っています。

謝って済むとは思えませんけれど、もし機会があれば、直接三郎さんに謝りたい気持ちですが、今
となっては遅すぎます。私は生涯この罪を背負ってゆくつもりです。

でも・・、あなた出現で、三郎さんは5年間のEDから抜け出すことが出来た。もし、あなたと出
会っていなければ、三郎さんは一生EDのまま過ごすことになっていたかもしれないのです。そう
であれば、私の罪はさらに許しがたいものになり、私の命でも償いきれないものになっていたと思
います。

三郎さんの男があなたによって蘇ったことで・・・、
私もあなたに救われました・・・。
千春さんには本当に感謝しています・・・」

夫人の長い告白に千春はじっと耳を傾けていました。夫人が深々と頭を下げるとあわてて、千春も
頭を下げています。

「そう言っていただけると・・、
スケベーな私でも人さまのお役に立てることがあるんだと・・・、
少しホッとします…」

「スケベ・・、さすが千春さんは面白い言葉を使うのね・・、
そう・・、スケベーな千春さんの力で、
三郎さんも、わたしも・・、そして多分理恵も・・・、
救われたのよ…、すべてあなたのおかげよ…」