フォレストサイドハウスの住人たち(その7)
2 フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(166)
鶴岡次郎
2014/05/08 (木) 11:54
No.2521

 結婚 (3) 

3人で会ったあの日から三ケ月後、千晴と浦上は結婚式を挙げました。新郎新婦側とも出席者がそ
れぞれ100名を超え、盛大ですが、それほど華美でなくどちらと言えば質素な、心温まる結婚式
でした。新婦側では店長をはじめ、店のみんなも出席しました。巨根の持ち主、専業農家の伊熊正
太郎と結婚して、東京から離れていた千春の元同僚、春美も式に駆けつけてきました。

「おめでとう・・・、千春・・・」

「先輩…」

花嫁ドレスの千春と、留袖姿の春美が抱き合い、互いに涙を流していました。二人きりになると、
春美が少し表情を改めて、口を開きました。

「それにしても、良く佐王子さんが許したね…、
彼は絶対千春を手離さないだろうと思っていた…」

メールや電話で春美には何も隠さず報告していたのです。

「うん・・・、
案外簡単に認めてくれた・・
・・と言うより、私たちの結婚を最初から応援してくれた…」

微笑みを浮かべて千春が答えています。

「そう・・、最初から応援してくれたの・・、
その気になれば、縁談を壊すことなど、
彼にとって、簡単なはずだけれどね・・、

よほど、千春を大切に思っているんだね…、
千春をあきらめた彼がちょっとかわいそうに思える…」

最後の言葉はつぶやくように言っていました。

「佐王子さんそんなに落ち込んでいないよ、
彼の周りには、女がいっぱい居るから、
私一人抜けても、彼の商売には何の影響もないのよ・・」

「そういう意味でなく…、
彼にとって、千春は特別な人だと思うけれど…」

「私が・・、特別の人…、
それって・・、どういう意味…」

「文字通り、特別の人なんだよ・・、
彼にとって、千春は…
千春は彼のことをどう思っているの…」

「勿論、体の関係では、彼との関係が一番深いし、一番感じる相手よ、
一緒に過ごした時間も、多分一番多い…。
それが特別の関係だというのであれば、彼は特別の人よ・・」

どうやら浦上に夢中な千春には彼以外の男性は意識にない様子で、春美の質問の意味を理解できて
いない様子で、会話が空回りしているのです。そんな千春を見て、春美は笑い出しています。

「やっぱり・・、
女は・・、特に花嫁は・・、惚れた男以外には冷淡だというけれど、
千春もそうなんだね…。

まあ・・、いいわ・・、彼のことは…、
とにかく立派な人だと思うよ、佐王子さんは…。

千春がこんなに立派な結婚式を挙げ、お嫁に行けるのは、彼のおかげだよ、
感謝の気持ちを忘れないことだね…」

佐王子の気持ちを本当に理解しているのは案外、春美一人なのかもしれません。