フォレストサイドハウスの住人たち(その7)
15 フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(179)
鶴岡次郎
2014/06/06 (金) 13:08
No.2536

義理の息子の再婚相手とはいえ、夫人にとって千春は赤の他人です。そんな女の身を本当に心配し
て、千春と浦上の間に何も問題がないと知り、涙を見せるほど喜んでいるのです。優しい夫人の態
度に千春は胸がいっぱいになっていました。

「それにしても・・・、何事によらず、
経験豊富なことは大切なことなのですね・・。
特に男女のことは、許される限り経験を積むことが大切だと・・、
あなたに教えていただきました・・。

この歳になって、やっとセックスの大切さに気が付いているのですよ…。
理恵だって、もっと経験を積んでいれば……」

優しい瞳で千春を見つめながら、塚原夫人は彼女自身に話しかけるようにして語っているのです。

「そう言っていただけると、私・・、すごく慰められます。実は・・、処女で結婚された理恵さん
のお話を伺って、世の中にはそんな清純で、素晴らしい方が居るのだと正直うらやましく思ってい
たのです。ふしだらな生活を送ってきた私自身に少し自信を無くしていたところだったのです。

せっかくの機会ですので、すこし・・、いえ、かなり恥ずかしい部分がありますが、三郎さんとの
出会いから今日までのことを、奥様には何も隠さず、すべてありのまま話します。

聞いていただけますか・・・、そして、可笑しいところがあれば、遠慮なく私をしかりつけていた
だきたいのです…」

夫人の心遣いに千春はかなり心を揺り動かされた様子です。浦上との経緯をここで夫人に報告する
気持ちになったのです。

「三郎さんと初めてお会いしたのは、半年ほど前、私の勤めるお店でした。閉店間近に、三郎さん
がフラーとお店に入ってきたのです。30分ほどの間に互いに意気投合して、閉店後お食事をごち
そうになり、お恥ずかしい話ですが、そのままホテルへ直向しました・・・」

「あら、あら・・、互いに一目ぼれだったのですね・・」

「少なくとも私は一目ぼれでした。
彼が店に入って来た瞬間から、目を付けて、
他の店員を押さえて彼の応対に立ちました・・・。

ところが・・、後で判ったことですが・・、
実は・・、彼・・・、
最初は私のことは何とも思っていなかったようです・・・」

「あら・・、あなたのようなきれいな人を見て、
その気にならない男性なんているかしら・・・」

「そういっていただけると、お世辞でもうれしい…、
正直に申し上げると、私ほどの女に、全く関心を見せないなんて・・・と、
ちょっとむくれたのは確かです…、ふふ・・・・・。

ところが、後で判ったことですが・・・、
その時、どんなに素晴らしい女性でも、
彼の気を引くことはできなかったのです。

彼・・、
理恵さんの死後一度も女性を相手にしたことが無かったのです・・。
その頃の彼は、女性に何も感じなくなっていたのです…」

「エッ・・、5年間一度も女を抱いたことがないと・・・、
そのことを・・、三郎さんがあなたに言ったの・・・?」

「ハイ・・・」

「・・・・・・・」

夫人は絶句して次の言葉が出せないのです。