フォレストサイドハウスの住人たち(その7)
11 フォレストサイドハウスの住人たち(その7)(175)
鶴岡次郎
2014/05/31 (土) 13:20
No.2532
夫人の少しおせっかいな忠告を千春が笑みを浮かべて受け入れるのを見て、夫人はもう一歩踏み込
もうと思ったようです。

「おせっかいついでに、もう一つ・・、
これは最後まで、言うか、言わないか迷っていたことですが・・、
あなたと話していて、この方なら・・、
私の気持ちを正しく受け止めていただけると思ったのです・・・」

ゆっくりと歩を進めながら、何気ない口調で塚原夫人は話しています。塚原氏と浦上はだいぶ先を
歩いていて、彼らのところまで塚原夫人の話は届かないはずです。

「これから少し失礼なことを言いますが、
私の歳に免じて許してくださいね・・。
千春さん・・、
三郎さんはあなたにとって最初の男性ではありませんね・・」

唐突で、結婚前の千春が答えに窮する質問ですが、それまでの会話で夫人の人となりが理解でき、
かなり心を許すようになっていましたし、塚原夫人の真剣な表情を見て、この場は素直に、ありの
まま話そうと千春はとっさに覚悟を決めていました。

「ハイ・・・、おっしゃる通りです・・。
彼が初めての男性ではありません。

私・・・、今年で28歳になります・・・。
10代の頃初体験を済ませて、それからいろいろありました。
多分・・、同年代の独身女性に比べて格段に経験豊富だと思います」

さすがに売春行為までは話すつもりはないのですが、経験人数を聞かれれば「自分でも数えきれな
いほど・・」と答えるつもりだったのです。千春の素直な返事に塚原夫人が満足そうに頷いていま
す。

千春は素直に事実を告げたのですが、それでもこの先、夫人が何を言い出すのか想像もできないで、
少しいぶかし気な、不安な表情を浮かべて夫人の横顔を見つめていました。

「失礼な質問にもかかわらず、まじめに答えていただいて、
さすが、私が見込んだ千春さんだと思いました・・。

でも誤解なさらないでね・・、
当然のことですが・・、
千春さんの過去をここでとやかく詮議するつもりはありませんのよ・・」

夫人はにこやかにほほ笑んでいます。勿論、千春も夫人が千春のふしだらな過去を責めるつもりで
この話を始めたわけではないと思っていました。

「実は理恵は処女で結婚しました。
25歳の時結婚したのですが、今時、その年まで経験がないのは、
少しおかしいですよね・・、そんな子だったのです・・、あの子は…。

私でさえ、夫と結婚する前、
数人の男性を知っていましたからね…、
勿論このことは主人には内緒ですけれどね…、ふふ・・・」

二人の女は顔を見合わせて笑っていました。

〈上品な奥様で、元々育ちはよさそうだけれど…、
案外、さばけたところがある、
今まで気が付かなかったけれど、素晴らしい美人だ…、
それにこのお色気・・・
とても私など、かなわない…、
若い頃は・・、いや、多分今も・・、相当男たちを悩ませているはず…〉

この時始めて千春は気が付いていました。豊かな胸、整った顔、好みの良い服装、凛とした立ち姿、
改めてみると現役の女性として並でない魅力が彼女から発散されているのを千春は感じ取っていた
のです。還暦を過ぎているはずの塚原夫人から、千春ではとても出さない女の色気、女の妖気を感
じ取っていたのです。