フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
7 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(137)
鶴岡次郎
2014/03/05 (水) 16:42
No.2487
千春は29歳の春を迎えました。もともと清楚な雰囲気を身につけた美人でしたが、女ざかりを迎
えた体はむっちりと豊満になり、同年代の他の女性では考えられないほど充実した性生活の効果で
しょうか、美しさに加えて、ぞくぞくするような色気が全身からにじみ出ているのです。

行儀よく足を交叉して、照明がそこまでは十分届かない店内の隅に立って、お客を待っている千春
を見ると、彼女の周りが別世界に見えるほど、神秘的な雰囲気に満たされているのです。そして、
お客が一歩、お店に入るのを目ざとく見つけると、だれよりも先に、淑やかに近づき、ゆっくりと頭
を下げるのです。

十分の間を取って頭をあげます。絶妙のタイミングで、伏し目の視線を一瞬の間に転じて男性客に
向けるのです。妖しい笑みを浮かべ、黒目がちの瞳で下から見上げられた男性は、ただそれだけで
全身が震えるほどの興奮を味わうことになります。

何度か彼女を抱いているお客も、店で千春を見るたびに、自分がこの女を抱いた事実をどうしても
信じきれない感情にとらわれるのです。淑やかで、神々しささえ感じるほどの美人です。近寄りが
たい、高貴な雰囲気を醸し出しているのです。
この女を抱きしめ、今、目の前に見える紺のタイトスカートを一気に巻き上げ、濡れそぼった秘所
に唇を寄せ、そこをむさぼり、思うまま弄んだ記憶が幻だと思えるほど、微笑みを浮かべて頭を下
げている清楚な千春とベッドの上の娼婦にはギャップがあるのです。

それだからと言って、取りつきにくい女ではありません。千春の場合、出会う男性には誰にでも愛
想よく、親しく接するのです。そんなはずはないと判っていても、この女は自分に好意を持ってい
ると、彼女に出会ったすべての男性がそう思い込むほど千春の態度は優しいのです。

女は一度抱かれると、一寸した仕草に、人目が途切れたわずかな時間に、その男だけに通じる信号
を送り出すのが一般的です。それが、意識されたものなのか、無意識に出たものなのか、女性本人
もよく判らないようですが、男女の仲とはそうしたものだと思うのです。千春の場合、どんな男性
にも優しく接するので、抱かれた男とそれ以外の男に接する時の態度に大きな差が見当たらない
と・・、そう思えるのです。この現象は、ひょっとして千春のたぐいまれな性感、生来の男好きの
体質から来ているものかもしれません。


29歳になり、経験、技量、販売実績、お客の評判、どれをとってもナンバーワンの千春は売り場
責任者として毎日忙しく過ごしています。そんなある日、長い冬がようやく終わりを告げるような
陽射しが見えて、人々がコートを片手にかけて歩く姿が見られるようになったある日、一人の若い
男、浦上三郎がまさに迷い込むようにして、彼女の店に入ってきました。

商用が早く終わり、報告をメールで送り、社に帰るのを止めた浦上は、飲み屋に入る時間調節の目
的で、街角の高級靴店に入ったのです。平均的な35歳のサラリーマンである浦上が手を出せるよ
うな金額の靴はその店にはありませんでした。それでも、どこか亡妻、明菜に似た雰囲気を持つ千
春の勧めに抵抗できないで浦上はフィッテイング・ルームに入ったのです。

店の客ではないと千春には最初から判っていたのです。それでも、その日はなぜか体が疼いて、同
年代のイケメンをからかってみたくなったのでしょう・・。強引に個室へ連れ込み、珍しいことで
すがドアーを閉め、内鍵をかけました。千春は何か企んでいるようです。勿論、店長をはじめ他の
店員たちは千春のたくらみに誰も気が付いていません。

最初はブラウスの隙間から豊かな乳房を見せる作戦をとっていたのですが、お客の反応が今一なの
で、部屋の隅でブラウスのボタンを3つも外し、さらにタイトスカートをたくし上げ、ブルーの
ショーツを巧みにちらつかせ始めたのです。しかし、千春は意外な事実にやがて気付くことになる
のです。

三年前までは毎日破廉恥な行為を見せて、お客を誘惑していたのです、千春の行為は計算しつくさ
れた熟練の技で裏打ちされています。どこまで見せればお客がどう反応するか千春はよく知ってい
るのです。

ところが、乳首が見えるほどにサービスをしているのに、若い浦上の股間に変化がないのです。本
来であれば、男の股間ははち切れるばかりに成長して、ズボンの前を押し上げる男根の雄姿を垣間
見ることができるはずなのです。ところが何も変化はないのです。千春の体に全く興味を見せない
浦上に千春は逆に興味を持ちました。少しむきになったと言った方が当っているかもしれません。