フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
5 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(135)
鶴岡次郎
2014/03/01 (土) 13:40
No.2484

千春自身にも大きな変化が出ています。以前は靴を売りたいがための献身的なサービスが高じて、
先輩の春美に見習って体さえも差し出すようになり、最初こそおずおずと抱かれていたのが、慣れ
てくると好色な体質からにじみ出る欲望を抑えることができなくなり、その行為そのものにのめり
こむようになり、ついには商売気抜きでお客の顔を見れば、習慣的に体を差し出すようになってい
たのです。

そんな状態ですから、男たちに抱かれた後は自己嫌悪感と罪悪感にいつもさいなまされていたので
す。おそらくその状態が続けば、お店で買春行為がバレる前に、千春は精神的に崩壊し、職を離
れ、社会の底辺にまっすぐに落下する道をとることになったと思えるのです。

佐王子と知り合い、彼のマネージメントの傘下に入ってからは、表の仕事と一線を画して、体を売
ることが仕事と割り切って男に抱かれることになったのです。普通であれば売春行為は女にとって
転落の一歩なのですが、千春の場合は違いました。

抑えきれないきれない体の要求に耐えかねて、周囲の目を盗んでこそこそとお客を誘惑する必要が
なくなり、佐王子に連絡すれば、毎日でも男に抱かれることができるようになったのです。以前に
比べて千春の精神状態は極めて安定しているのです。勿論、体を売っていることへの罪悪感は皆無
ではありませんが、だれに迷惑をかけるわけでもないと割り切れば、もともと好色な体質を持つ千
春はこのアルバイトを楽しむ余裕さえ持つようになり、昼間は店員、夜は娼婦の生活に違和感を
持たないで馴染んでいるのです。

また、佐王子に紹介された医院へ定期的に出向き、避妊や感染病への対策を処置してもらうように
なり、その関係の心配が消えたことも千春の気持ちを安定させる一要素にもなっているのです。

もともと好きでシューフィッターの道に入った千春ですから、迷いの消えた千春はすべての情熱を
この仕事に向けています。そして今では、実績とその能力から紛れのなく店内で一、二を争う
フィッターになっているのです。

この店では、シュー・フイッターは単に靴だけでなく紳士のファッションに関しトータルコーデイ
ネーションにまで手を伸ばすのが普通になっています。というのも、千春の勤める店は靴店からス
タートしたのですが、その後服飾関係や、バッグ、アクセサリー部門にも進出して、今では男性
ファッションの一流ブランドの一つにまで成長していて、一階が千春の勤める靴売り場で二階、三
階が高級紳士服と小物を扱う店になっているのです。その関係で、お客が望めば千春達はトータル
コーデネイトをやることも珍しくないのです。

千春に赤い紙を出し、彼女を買い求めることになったお客たちは、彼女のご機嫌どりのつもりで、
彼女にアドバイスを求め、靴や衣服を買い求めることがあります。それまで靴や服装に気を配らな
かった男性たちがほとんどだったのですが、千春が与えたファッションアドバイスで買い求めた靴
や衣服を身につけると、妻や部下がまず驚き、男達もまんざらでない気分になるのです。そして、
それまではどちらかというと自信の持てなかった自身のビジュアル面でもかすかな自信を持つよう
になっていたのです。

そうなると不思議なことに男達の仕事もより順調に展開しはじめたのです。どうやら千春と付き合
うことで、性的な面に止まらず、ビジュアル面でも、男達は一度失った自信を取り戻し、仕事の出
来る男にさらに磨きを掛けることになるのです。

こうして、ベッドの上で悶える超淫乱な売春婦の表の顔、プロフェッショナルなファションアドバ
イサーの一面を知ることで、男達は千春を再評価し、さらに千春にほれ込み、リピートで彼女を抱
くようになったのです。

彼女を取り囲む男達のファングループが瞬く間に出来上がりました。勿論男達は互いに他の男達の
存在をほとんど知りませんが、リピートで彼女を求める安定したお客集団が出来たことで、佐王子
と千春のビジネスは開業数ヶ月で安定域に入っていたのです。@2014/3/2