フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
35 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(165)
鶴岡次郎
2014/04/30 (水) 13:57
No.2517

二人の男は黙って見つめあっていました。短い言葉のやり取りでしたが、意図は浦上に完璧に通じ
たと佐王子は感じ取っていました。

〈この若造・・、
見かけもなかなかの二枚目だが・・・・
頭も切れるようだ・・・、
俺の言っていることを間違いなく受け止めたようだ…。

さて・・、そこまで知った上で、千春を嫁に出来るかな…、
今、しきりに考えているようだが、どんな結論を出すか、楽しみだ〉

浦上の視線は自身の胸の内に向けられ、佐王子から得た新らたな情報によって自身の決意に変化が
生じていないか、注意深く確かめているのです。

〈娼婦になるために生まれた来た女…、
万に一人の女・・、
僕はそんな女に惚れたらしい・・・・。

一目で惚れた時点で、僕には千春以外の選択肢はなくなっているのだ…。
どこまで行けるか判らないが、行き着くところまで行こう…、
先のことを考えるより、先ず、彼女に溺れる生活を楽しもう・・・〉

短時間で浦上は結論を出していました。晴れやかな表情で佐王子に向かって大きく、力強く頷いて
いました。佐王子は・・、目を潤ませて、何度も・・、何度も頷いていました。

「私のアドレスです。いつでも連絡をください。
千春さんのことで相談に出来るのは、私だけだと思ってください・・
私が今日話したことが少しでも気になる現象を目にしたら、
迷わず、必ず一報ください・・。
早期発見が大切です…、
対処方法を誤ると、みんなが不幸になりますから・・・」

謎のようなささやきとメモ用紙を残して佐王子は足早にレストランを出て行きました。


「何を話していたの…、
ずいぶんと楽しそうだったけれど…」

席に戻ってきた浦上に千春が質問しています。

「いや・・、男同士のたわいのない話だよ・・」

「何・・、聞きたい…、
私には話せないこと・・」

「そうでもないが…」

不自然に隠すと、馬脚を現すことになると浦上は考えました。

「千春さんの好きなラーゲは・・、
後ろからだと佐王子さんが教えてくれた・・」

「エッ・・・、嘘・・、そんなこと話し合っていたの…、
スケベー…、嫌ね…、
男の人っていつもそんな話をしているの・・・、
ねえ・・、他にも何か言っていた…」

「後ろからしながら、前を触るといいと教えてもらった。
その他、いろいろ教わったが・・、
それはその場になれば実戦で千春さんにも教えます、

佐王子さんは言っていた・・。
・・・とにかく好き者だから・・、
夜のサービスを欠かさないようにと言われた・・」

「あら・・、あら…
大変なお話ね・・、
ねえ・・、それで、三郎さんはどう答えたの…」

「頑張りますと、言ったさ…」

千春が大声で笑い出し、浦上もつられて笑っていましたが、佐王子の残した言葉が大きく彼の上に
乗しかかっていました。それでも、千春を幸せにできるのは彼自身だとの思いにすこしの迷いもあ
りませんでした。