フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
34 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(164)
鶴岡次郎
2014/04/29 (火) 11:01
No.2516
かなり思い切ったことを言ったので、怒りや、拒否反応を見せるのではと、佐王子は心配して、浦
上の様子を探っているのです。

〈おや・・、この若造…
見込んだ通り中々の男だ…、
この程度の話では狼狽えないようだ…〉

質問も、文句も、口に出しそうにないのを察して、佐王子はゆっくりと口を開きました。いよいよ
核心に触れるつもりのようで、珍しく彼の表情が少し固くなっているのです。

「彼女は特別な女性であることを忘れないでください・・。
言い換えれば・・・、そう・・・・、
その家業をやるために生まれてきた女だと言っても過言ではありません」

ここまで露骨な話を聞かされても、浦上は少し笑みを浮かべて、宙に視線を漂わせている姿勢を変
えないのです。佐王子の話に耳を傾けているのは確かなようで、話が途切れると、次を促すように
佐王子を見るのです。むしろ、慎重に言葉を選んでいる佐王子の方が緊張気味です。

「勿論・・、彼女自身はそのことについて自覚していません・・。

残念ながら、この世の中は彼女のような女性が生きてゆくにはあまり制約が多すぎます・・・。
実を言うと、私の稼業でも、彼女のような女は生き辛いのです。
そのことがあまり好きだと、商売が商売でなくなり、やりすぎて体は勿論、精神までも壊すことに
なるのです。何事も、ほどほどが良いのですよ・・・。

多くの男は彼女のような女を求めながら、いざ、その女を手中にすると、
自分では意識しないで、その女の魅力を封じるようになるのです。
女を十分喜ばせることができないのに、
狭い檻の中に縛り付けるのが、男なんですよ…・」

ここで、大きく息を吐き出し、佐王子は卑屈な笑みを浮かべて、浦上に同意を求めるようなしぐさ
を見せています。浦上は姿勢を崩しません。

「他の男には目もくれないで、一人の男性を守って生涯暮らしてゆくことは・・・、
おそらく・・、彼女自身は一生懸命頑張ると思いますが・・、
不可能に近いことだと思います・・。

一般的な意味での結婚生活を立派にやり遂げようとすると・・・、
いずれ・・・、彼女は心に重篤な病を持つようになるでしょう・・」

ストレートな表現を好む佐王子ですが、この時ばかりは遠回しに、核心をずらせて話しているの
です。そのうえ、言葉を選びながら話しているので、話がとぎれとぎれになっています。

「佐王子さん…」

じれた浦上が不満そうな表情を浮かべています。ついに、口を開きました。それでも笑みを浮かべ
ているのは立派です。

「おっしゃっている意味が今一つよく理解できません・・・、
私なりに、あなたの言葉の裏を無理に理解すると・・、

将来・・、それもかなり近い将来・・・
彼女の思いにかかわりなく・・・、
千春さんは、いずれ売春婦に戻ることになると・・、

あなたはそう思っているのですか・・?」

「・・・・・・・」

浦上の質問に、佐王子が黙って頷いています。