フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
33 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(163)
鶴岡次郎
2014/04/26 (土) 15:29
No.2514

佐王子に言われたとおりそれまではにこにこ笑っていたのですが、佐王子がいよいよ核心に触れる
内容を話し出すと判ると、笑みを忘れて、佐王子を睨み付けるように見ています。無理もありませ
ん、これから結婚しようとする女の隠された性、それもかなり突飛な性を、この4年間千春をさん
ざん弄び、彼女を売春婦に仕立て上げた憎い50男から聞かされるのです。浦上が平静状態を保て
ないのは当然です。

「浦上さん、そんな怖い顔をしてはいけません、
笑いを絶やさないようにしてください。
くだらない冗談を聞かされているふりをしてください」

佐王子の注意を受けて、また浦上が笑い顔を作っています。

「一流靴店に勤めている女性がその一方で売春をしているのは、
だれが考えても破廉恥で、異常なことですよね、
普通こんな恥ずかしいことは、誰にも話しませんよね、
まして、相手が結婚相手となれば、なおさら、この秘密は隠します。

それにもかかわらず、彼女をそうした境遇に落とした張本人の私が、
あえてその秘密を、婚約者であるあなたに話しました。
何故そんなことをした・・、そんな秘密を暴露する必要はなかったと・・、
誰でも不思議に思いますよね・・・。
あなたが、そのことで私を詰問したのは当然です・・・」

浦上が軽く頷いています。

「私の説明で納得してほしいと思ったのですが・・、
案の定、頭の切れるあなたは私の説明では満足していなかった。

私があえて、千春の秘密をあなたに話したのは・・・、
千春と結婚するあなたには、千春の本性を知ってほしい・・、
知るべきだと考えたからです・・・」

必死で笑顔を作っていますが、浦上の視線は宙を漂っているのです。彼の頭の中で様々な考えが駆
け巡っているようです。

「売春稼業を始めさせたのは私です・・・。
その意味で、この場で、あなたに殴り倒されても私は何の文句も言えません、

しかし・・、
今から申しあがることは決して私自身の犯した罪を擁護するためのものではなく、
あなたと千春さんの幸せを考えた上でのことだと、理解して欲しいのです。

もし私がその道を付けていなかったら・・・・、
今頃、彼女はもっとひどい環境で、
どこかの風俗店でその稼業をやっている可能性が高いのです。
おそらく、そうであれば、あなたとの結婚話が出ることはなかったでしょう…」

佐王子が手引きをしていなかったら、千春は堕ちるところまで堕ちたはずだと、佐王子は言ってい
るのです。これが佐王子の言い訳でないとすると・・、釈然としない気持ちなのですが、浦上はた
だ黙って聞いていました。