フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
30 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(160)
鶴岡次郎
2014/04/21 (月) 15:55
No.2511

この質問が出てくるのを佐王子は予想していました。そしてもちろん、説得力のある答えも準備し
ているのです。ただ浦上の様子を見て、適当にあしらえる相手でないと判断したようで、佐王子は
言葉を選びながらゆっくりと話し始めました。どうやら、彼の説明で浦上を完全に納得させる自信
がないようです。

「浦上さんがそう受け取ったのは当然です。
あなたを少しイラつかせて、本音を引き出すつもりだったのですから・・・。
やや、過激な言葉を使ったことは謝ります。

あなたの質問の件ですが、お二人の将来を危うくするようなことは言いたくなかった、
出来ることなら、このことは千春さんと私だけの秘密にしておきたいと思っていました。
千春さんも多分そのつもりだったと思います。

いろいろ考えた結果、秘密をお話しすることが千春さんにとってベストだと思ったのです・・、
それで千春さんの了解も得ないで、私の独断でお話ししたのです」

「そうですか・・、千春さんのためを思ってのことですか…、
だめですね・・・、私にはやはり納得できません…。

ご覧の様に、未熟者ですから、佐王子さんの本心が良く理解できません。
面倒なことをお願いするようで申し訳ありませんが、
経験の乏しい僕にも判るように説明いただけませんか・・・」

佐王子に対する浦上の評価がかなり好転しているのです。見かけによらずしっかりした考えを持った
男、彼の職業や、見かけで判断した以上にできる男だと浦上は佐王子を評価しているのです。言葉
使いも丁寧になっています。経験の深い先輩に教えを乞う姿勢さえ見せているのです。

「もし私が売春のことをあなたに伏せていたら・・・、
千春は・・、いえ・・、千春さんは・・、
一生その秘密を抱えて、あなたと暮らすことになる。
そんな苦労を、彼女にさせたくないと思いました・・・」

浦上が頷いています。

〈そのことは勿論考えた…、
最愛の夫には勿論、誰にも話せない秘密を抱えて生きることは、確かにつらいことだ、
しかし、秘密を話せば僕が彼女を見捨てることを、心配しなかったのか・・

どちらを取るか・・、難しい判断だ・・・・
僕なら、この場は秘密を守る道を選ぶと思う・・・・〉

浦上の釈然としない表情を見て、佐王子は少し慌てていました。

「私がその秘密を話して、それで離れて行く男であれば・・、
浦上さんはそれだけの男だと・・、
あなたを取り逃がしても・・、
千春さんにとって惜しい男ではないと思ったのです・・。
千春さんにはもっといい男が似合うと思ったのです・・・」

そこで佐王子は口を止め、いたずらっぽ笑みを浮かべて浦上を見て、そして視線を千春に向けま
した。千春の瞳から涙があふれていました。それでも、必死で泣くのを我慢しているようです。

〈驚いた・・・、この人は僕の心を読み切っている…、
僕が不審に思っている事実をズバリと突いてきている…
この人にはかなわない・・、
釈然としないが、佐王子さんには悪気がないようだから・・、
これで良しとしよう…〉

佐王子の説明に浦上は苦笑を浮かべて大きく頷いています。ようやく納得した浦上を見て、佐王子
が何度も、何度も頷いています。