フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
3 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(133)
鶴岡次郎
2014/02/27 (木) 15:58
No.2482

門倉悠里と峰岸加奈、二人はFSハウスの住人で、共に30歳代中ごろの女ざかりを迎えているの
ですが、子宝にまだ恵まれていません。一流会社に勤める夫が出勤した後は、暇な時間をカラオケ
に費やすのが二人の楽しみになっているのです。

二人は数年前、ほとんど同じ時期にこのFSハウスへ移り住んで来て知り合いになりました。感受
性が高く、万事に奔放な考え方を示す悠里と慎重で頭の良い加奈は、一見正反対の性格でとても気
が合いそうには思えないのですが、どうしたわけか、初対面の時から心を許しあえる気持ちになり、
間もなく無二の友達になっていました。

二人の夫は目下出世街道をまっしぐらに走っているエリートで、どうしても妻への愛情表現に手抜
きが出る年頃なのです。そんな二人の楽しみはカラオケです。家事を朝の内に済ませると、昼過ぎ
隣町のカラオケ店に入り、午後4時ごろまでここで過ごすのです。最初は純粋にカラオケを楽しん
でいましたが、ひょんなことからカラオケ店に来た男たちと知り合いになり、楽しい時間を過ごし
たのです。一度男たちと楽しい時間を過ごすとその味が忘れられなくなり、カラオケ店へは男漁り
が目的で来るようになったのです。彼女たちの男選びの基準はしっかり決まっていて、イケメンで
ある必要はなく、後腐れのないセックスが出来る男、面倒を引き起こさない男、それを基準にして
選んでいるのです。そしてどんなにいい男に巡り合っても一度限りと決めていて、決してリピート
はしないと決めていたのです。

ある日、いつもの様に男を待っている時、部屋のドアーを開けて一人の中年男が二人を訪ねてきま
した。最近複数の男を相手にする面白さを覚えていた二人は、単独で訪ねてきた男を断るつもりで
した。その男を追い払うため加奈が立ち上がり扉の側に立つ男に近寄ったのです。男まで一メート
ルに近づいた加奈は、何か大きな衝撃を受けたようで、一言も言葉を発することができないまま、
その場に立ちすくんでいました。

男は170センチに満たない身長で、スリムといえば聞こえはいいのですが、少し痩せ気味で、そ
れがその男をすこし貧相に見せていました。面長の顔は良く見れば、それなりにいい男なのですが、
睫と鼻が異常に目立つ濃い顔で、そのため全体にアンバランスな印象を受けるのです。ただ、一度
会うと決して忘れないと思える顔でした。そして何よりも、一目その男を見た女は・・、どんな境
遇の女であっても・・、その男を意識せざるを得ない心境になるのです。たぶん、女性だけが、い
え、メスだけが感知できる動物的な魅力をその男は身につけているのだと思います。

加奈は無言でその男の手を取り部屋に引き入れました。少し離れたところからその様子を見ていた
悠里は少し不機嫌になっていました。悠里にとって、男の質はどうでもよくて、数が重要なのです。
少なくても、三人以上の男を同時に相手にすることを悠里は望んでいるのです。

そんな悠里でしたが、その男が近くに来て、彼の香りを嗅ぎ、彼の持つ得体の知れないオーラを全
身で感じ取った時、腰が抜け、全身が痙攣するほどの衝撃を受けていました。大げさに言えば、男
が大きな男性器に見えたのです。下半身から力が抜けて、女性器が滴るほど濡れているのを感じ
取っていたのです。

二人の女はその男、佐王子保に溺れました。それまで男たちに抱かれ、何度も何度も昇天し、全身
の水分をすべて吐き出すほど感じても、そして、男たちがどんなに熱心に誘っても、決してリピート
に応じなかった二人ですが、ここへ来て、佐王子以外の男と遊ぶ選択肢を二人の女は自ら進んで捨
ててしまったのです。こうなると遊びが遊びでなくなることを、二人の女は一番良く知っていて、
それを警戒していたのですが、女の本能に理性が負けたのです。

佐王子と会うのであれば、わざわざカラオケ店に行く必要がなく、二人の女と一人の男は、昼間か
らシティ・ホテルの一室で絡み合うようになったのです。しかし、よく言われることですが、よほ
どのことがない限り、3Pの関係は長続きしません、加奈と悠里も、結局佐王子を取り合うことに
なり、同じマンションに暮らしていながら、二人の女は間もなく顔を合わせることさえしなくなった
のです。

二人の女が互いにけん制しあっている隙間をうまく突いたのでしょう、佐王子は悠里を攻め落とし、
当初の狙い通り彼女の自宅を根城にした売春婦に仕立て上げることに成功したのです。

一方、加奈は佐王子の本心を見抜き、佐王子の魔の手から親友、悠里を救い出そうと決心したので
す。彼が女に使用する媚薬に秘密があると察知した加奈はその媚薬に対抗する手段を見つけるため、
あちらこちらに出かけて、何やら懸命に調べているようです。いずれ、加奈が佐王子に真っ向から
対決するシーンを目にすることになると思います。


ここまでFSハウスに住まう人々の生活を少しだけ垣間見てきました。何不自由なく幸せな生
活を送っているように見えるFSハウスの住人も、一皮剥けば、心の闇を抱えている人々が多
いことに気が付きます。そしてそうした人々の心の闇にこっそり分け入り、そこに住み着いている
人物の存在に我々は気が付きました。

竿師、佐王子保。本来彼の活躍場所は燦々と日の当たるFSハウスのような表舞台ではないは
ずです。ごみごみした都会のうらぶれた街角にひっそり建つ、薄汚いアパートが彼には似合うので
す。それでも彼は、何故か、このFSハウスに彼の拠点を構築しようとしております。

既に、FSハウスの自宅から失踪した幸恵はどうやら佐王子の罠にはまっているようですし、悠里
は彼の手にかかり自宅で売春稼業を始めました。そして、FSハウスの他の部屋、われわれの
目の届かない誰かの部屋で、彼の体に屈した主婦が悠里と同じように仕事をしているかもしれない
のです。

これから先、佐王子が仕掛けた糸に釣られた女がどのように生き、どのようにあがくのか、その物
語をゆっくり追ってゆきたいと考えております。