フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
25 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(155)
鶴岡次郎
2014/04/16 (水) 15:33
No.2506

佐王子の嘲笑を浴びても浦上は表情を動かしません。千春は・・、もう・・、この先の展開が全く
読めないようで、うつろな表情を浮かべ二人の男をかわるがわる見ているだけです。

「佐王子さん、あなたの真意が良く判りません。
あなたは、千春さんの過去をことさらの様に印象悪く暴き立てていますよね・・・。
何か企みがあるように思えてならないのですが・・・」

衝撃的な千春の秘密を聞かされ、ここで浦上が正常心を失い、狼狽え、わめき散らすことさえ想像し
ていたのです。それが、佐王子の暴露話を冷静に受け止め、その内容を分析し、その暴露話の裏に
隠された佐王子の企みさえ、浦上は暴こうとしているのです。

佐王子の予想を裏切る浦上の反応だったのです。浦上の言葉に、否定も肯定もしないで佐王子はた
だ苦笑を浮かべているだけです。そして、浦上が案外手ごわい相手と分かったのでしょう、彼から
積極的に浦上に攻撃をかけないと決め、ここは浦上の出方を見る姿勢を見せているのです。

勿論、佐王子の戸惑いを浦上は的確に捉えていて、それまで押されぱなっしだった佐王子に対して、
一矢報いた気分になっていたのです。

「お答えがないようですが・・・、
いいでしょう・・、
あなたが何を企んでいるか、今はそのことには触れないでおきます・・」

あっさり浦上が佐王子の追及を止めています。一呼吸おいて浦上が口を開きました。すっかり落ち
着いた様子で普段の浦上に戻っています。

「あなたが私より先に千春さんと関係を持ったことは認めます。
しかし、これだけは言っておきたいのです。

このままあなたとの関係を続けたとしても、
その先・・、千春さんが幸せになるとは思えないのです・・・」

ここで次の言葉を飲み込みました。愛しい千春の名前を口に出したことで、浦上の中にこみ上げって
くる何かがあるようです。それまで冷静さを見せていた表情にわずかな変化が出ています。無理も
ありません、最愛の恋人が最悪の男に奪われようとしているのですから…。

「私は千春さんを誰よりも深く愛しています。
多分、あなたより、私は千春さんを幸せにできると思っています・・

お願いです・・・、
千春さんのことを少しでも気にかけているのなら、
僕たちの関係に口を挟まないでいただきたいのです…」

さすがの浦上も自分の気持ちを抑えきれなかったようです。千春を恋する気持ちが浦上の中で暴発
しているのです。佐王子を睨み付けるようにして、それまで考えていた筋書とは違う挑戦的な言葉
を吐き出してしまったのです。

学生時代武術に励み、180センチを超える偉丈夫です。取っ組み合いになれば、小男の佐王子を
押さえつける自信が浦上にはあるようです。腕力勝負への自信が挑戦的な言葉を吐き出させたのか
も知れません。

「おや・・、おや、相当な自信ですね…・、
しかし、そうとばかりは言えないと思いますよ…、
あなたから見て、今の千春は不幸に見えますか・・?

毎日好きな仕事に情熱を燃やし、
夜ともなれば、私が紹介した紳士たちの手で天国に上る思いをしている。
まさに、千春は女ざかりを謳歌していると思うけれどね…」

笑みを浮かべた佐王子がやんわりと反論しています。