フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
24 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(154)
鶴岡次郎
2014/04/15 (火) 16:01
No.2505
浦上が席を立って、それを最後に二人の関係が終わると、千春は覚悟を決めていました。それだ
けに、衝撃的な話を聞いても席を動かず、ただ黙って佐王子を睨み付けるようにしている浦上を
見て、千春は当惑していました。

〈三郎さん・・、何を考えているのだろう…、
裏切られた怒りと、あまりにひどい私の話を聞いて・・、
あきれ果て、怒ることさえ忘れているのかもしれない…。

いずれにしても、これで終わった…、

何も知らせないで、判れるより、
むしろ、こうした形で終わることができたことを感謝すべきかもしれない・・〉

浦上の中に噴出した感情は、不思議なことに千春への怒り、蔑みの感情ではありませんでした。激
情の矛先はもっぱら佐王子に向けられていたのです。あからさまに千春の過去を暴き立て、彼女を
辱める佐王子に対して、浦上は怒りで身体を震わせていたのです。

〈なんて男だろう…、
果たして・・、ここまであからさまに・・、
何も隠さず、売春行為まで僕に話す必要があったのか・・、

もう少し、こちらの気持ちを汲んでいれば、そこまで言わないだろう・・、
側に居る千春をそこまで辱める必要はないだろう・・・、

愛人とか、情婦とか・・、やんわりと言えばそれなりに理解できるのに、
もう少し受け入れ易い言葉を選ぶことだって出来たはず・・・。

いや、いや・・、これは彼の作戦だ…、
嫌がらせの事実を並べ立て、僕を彼女から引き離そうとしているのだ・・
彼の挑発に乗ってはいけない…〉

浦上は必死で戦っていました。そして、佐王子がことさらのように千春の悪事をバラしているのは、
浦上を千春から排除しようとする佐王子の強い意志が働いていると考えたのです。そうであれば、
そんな作戦に乗ることは出来ない。浦上は自身の信念を貫く気持ちをあらわに出して、佐王子を睨
みつけていたのです。

「佐王子さん・・、
それであなたのお話は終わりですか・・、
もう・・、隠していることは有りませんね・・」

静かに、抑揚の無い調子で浦上が言葉を発しました。予想に反して冷静に反応する浦上を見て、佐
王子が本心で驚いた表情を浮かべています。

「いや・・・、驚きましたね…、浦上さんは冷静ですね…・、
こんな話を聞いても、さすが一流会社の方は肝が据わっているというのか、
割り切っていると言うのか、案外平静ですね・・、驚きました・・」

佐王子が、本心で驚いた表情を浮かべています。千春もびっくりして浦上を見つめています。

「もしかしたら・・、
浦上さんはこの程度の話は予想できていたのですね、
素人には見えない私が千春と同席しているのを見て、
この話の展開を予想していたのですね…、

う・・・ん・・・、それにしても、たいしたものだ・・、
サラリーマンにしておくのはもったいない度胸ですね・・、はは・・」

佐王子の低い笑い声が空ろにその場に広がっています。