フォレストサイドハウスの住人たち(その6)
17 フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(147)
鶴岡次郎
2014/04/02 (水) 14:47
No.2497

相手には問いただすことができない悩みと、募る恋心の狭間に立って、男と女は互いに心の中に激
しい葛藤を抱きながら、それでも二人は会うことを止めませんでした。二人が最初に出会ってから
三ヶ月が経過していました。この頃には、男も女も次の段階に進むべきだと、二人の関係について
潮時の到来を感じ取っていたのです。

いつものように激しい時間を過ごし、ホテル近くのプチ・レストランで遅い夕食を摂っている時、
話があると、改まった表情で浦上が話しかけてきました。

「ご存知のように、私はバツ一の身だが・・・、
こんな私でも良ければ・・・、
結婚してほしい・・・・・」

「・・・・・・」

浦上は千春を真っ直ぐ見て言いました。

千春29歳、浦上35歳の時です。浦上の態度と日頃の付き合いから、いつかこんな話が出ると予
想できていたのでしょう、千春は驚いた様子を見せないで、じっと浦上を見つめていました。

「ありがとうございます・・、
本当に嬉しい・・、
もう・・、私にはこんな言葉は永遠に聞けないと思っていました」

堪えられないのでしょう・・、ここで言葉を切り、ハンカチで目をぬぐっています。男は神妙な表
情でじっと待っています。

「女の子って・・、物心がつくと、いつの日か、自分だけの王子様が現われて、
手を取り、宮殿に案内してくれる日を、夢見ているのです。

それが、25を過ぎ、30歳近くになると、
私には王子様は来ないかも・・と、思い始めるのです・・・」

うっすらと涙を浮かべて千春は話しています。この調子ならいい返事が聞けそうだと浦上は喜んで
います。

「せっかくのお言葉ですが、
浦上さんのお申し出を受けることは出来ません・・・」

「エッ・・・・」

低い声ですが、千春はよく通る、明瞭な発音で浦上に伝えました。それまでいい返事を予感してい
た男は、ビックリして次の言葉を出せないのです。

「出来るものなら、浦上さんのお申し出を受けたい・・、
心からお慕い申し上げている浦上さんと結婚したい・・。
しかし、私はそんなことは出来ない・・、
いいえ、そんな世間並みの幸せを求めてはいけない女なのです・・」

「理由(わけ)を教えてください・・。
何が原因なのですか、理由(わけ)も知らないで、
このまま別れるなんて出来ません・・」

浦上が当然の質問をしています。

「理由(わけ)を聞かないで下さい。
聞けば私が嫌いになります。
何も聞かないで、このまま別れてください・。
せめて、良い思い出だけを残して別れたいのです・・」

目に涙を浮かべ、千春は必死の表情を浮かべ、浦上に訴えています。