フォレストサイドハウスの住人たち(その5)
31 フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(131)
鶴岡次郎
2014/02/26 (水) 11:40
No.2478

あっけないほどあっさり、二人は買春行為を止めると宣言しています。

「千春・・、なんだかとってもいい気分だね・・」

「そうだね・・、周りの雰囲気が変わった様な気がする・・」

ホッとした表情で二人は互いに頷きあっています。おそらく、これまで罪悪感と自己嫌悪感をいつ
も抱いて過ごしてきたのです。大きな肩の荷を下ろしたような気分に二人はなっているのです。

「それでね・・亜紀・・、私たちが止めると、一方的に決めても、それだけでは済まないのよ・・、
今まで可愛がっていただいたお客様に事情を説明して、これからは只の店員とお客様の関係に戻る
ことを理解していただけことが大切になる」

「そうだね・・、私達だけが止めると決めても、
お客様が許さない場合がありそうね・・」

「ことが事だけに、大ぴらに閉店通知を出すこともできないしね・・。中には、無理やり、やらせ
ろと言い出す人だっているかもしれない・・。私達だって、その行為が嫌で止めるわけでないし、
一度くらいなら禁を破ってもと、思うことがあるかもしれない・・。でも・・、止めると決めた以
上、どんなことがあってもお客様の要求を受け入れてはいけないと思うの、これが一番大切だと思
う・・・」

「そうだね・・、中途半端にするのが一番いけないことだね、私なんか意志が弱いから、一度抱か
れるとそのまま続けることになりそう・・・。
千春・・・、どうしたらいいだろう・・」

「お客様には出来るだけ正直に事実を告げて、理解していただくことにするといいと思うの・・。
お客様から声がかからなくなったら、私達から仕掛けることはないからね…。自然と、悪い習慣は
消えると思う・・、少し時間はかかるけど、じっと我慢することが大切だと思う。

私は・・、店長が私達の行為に何となく気がついて内偵を始めた様子だから、大事になる前に、口
を拭って何も無かったことにしたいと、お客様に頭を下げてお願いするつもりよ・・・。変に隠し
立てすると妙な噂が広がるといけないからね、お客さまだって、良いことをしていると思っていな
いから、すぐに判ってくれるよ・・」

「うん・・、私も・・、千春の言うとおりにする。
誘われてもホテルへは絶対行かないことにする・・
でも・・、正直言うと、少し寂しいネ・・・、ふふ・・・・」

「仕方がないョ、亜紀・・・、我慢、我慢・・。
ほしくなったら、お店と関係のない男を選ぶことにしよう。
これを機会に、いい恋人でも探そうか・・、ふふ・・・・・」

「恋人ね…、若い男でしょう・・、
私・・、若い男では満足できないかも…、
おじさん達に抱かれることに慣れて、若い男では逝けない体になったかも・・」

「亜紀のスケベ・・!
でも・・、私もそうかも・・・、ふふ・・・
私達って・・、年の割には、知り過ぎているのかもね・・・」

「仕方がないよ・・、その内、Hのうまい男を見つけよう・・」

「そうだね・・」

二人はにっこり微笑み会い、互いをハグしました。亜紀と千春がお客に抱かれるのを止めたこと、
そしてお客様へ説明する内容が、同じ行為を続けていた他の店員へもその日の内に伝わりました。
店長の訓示で怯えていた彼女達は直ぐにお客に抱かれることを止めました。お客への説明では、口
を揃えて、千春と同じ説明をしました。

元々、後ろめたい思いで店員たちを抱いていたお客たちは、彼女たちから事情を聞くと、直ぐに納
得して引き下がったのです。たちの悪いお客がしつこく付きまとうようなら、佐王子本人の出番も
あると彼は考えていたのですが、さすがに名店のお客たちです、店員たちから事情を聞くとあっさ
り引き下がったのです。

こうして、その店から淫靡な行為はとりあえず一掃されることになりました。深く先行してその行
為が密かに行われている可能性は完全に否定できませんが、それでも、ほとんどの個室で扉は開け
放たれたまま接客が行われるようになりましたし、店員同士のプライベートな会話でも、そうした
行為が話題に上がることはなくなっていたのです。以前、この店でかなり大ぴらに行われていたそ
の行為が、恥ずべき行為として地下深く葬り去れたことは確かなのです。

加納千春に関して言えば、その後、完全にその行為と無縁になりました。毎日、明るく、生き生き
として好きな仕事に打ち込んでいるのです。

〈もっと早く止めておけばよかった…〉

心から、千春はそう思うことが多いのです。佐王子の計略は見事に成功したのです。これで、この
店における汚い過去の痕跡は、彼女の心からひとまず完全に消し去られたことになります。