フォレストサイドハウスの住人たち(その5)
28 フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(128)
鶴岡次郎
2014/02/18 (火) 15:23
No.2474

佐藤薫のセクハラ事件が発生した翌日、休暇明けの千春は出社してその事件の全貌と、店長訓話の
内容を知りました。そして、セクハラ事件の被告、南伊織こそ佐王子が差し向けた仕掛け人である
ことを察知していました。

千春と一緒に今回の筋書きを決めた時は千春が架空の噂をお客に広めることにしていたのです。そ
して、田所にはこの筋書き通りの内容を説明し、彼を信じ込ませることに成功したのです。田所を
うまく騙した千春の報告を聞いて、佐王子は考えました。

〈勘のいい田所と同じように他のお客が状況判断するとは限らない・・、
千春が田所に説明したセクハラ事件を実際に引き起こし、
あの店の関係者をその気にさせることにしよう・・・〉

レストランのオーナーである田所は、断片的な千春の説明を聞き、勘良くすべてを見通し、危険を
察知して逃げたのですが、他のお客が田所のように勘がいい人ばかりではないのです。今回の作戦
を確実にするため、千春が田所にした嘘の情報を現実のものにするべく、佐王子は腹心の部下、南
伊織を店に派遣したのです。南が新人店員、佐藤薫へ仕掛けたセクハラ事件に対して、佐王子の期
待通り、いや、その期待をはるかに超える反応を店長は見せたのです。あらかじめ店長と示し合わ
せていても、こう上手くは運ばないと思えるほどの結果でした。

結果として、店長をはじめ、店員全員がこの事件に巻き込まれ、その日の内に、店を挙げてセクハ
ラ追放活動が展開されることになったのです。千春がまき散らす予定であった噂話だけではここま
で到達するのは難しく、たとえ、ことがうまく進んでもこんなに早く狙いが実現するとは思えない
のです。
千春は改めて佐王子の非凡な力を認識していたのです。そして、彼に傾く気持ちはますます強く
なっていました。


田所に上手く対応できた千春はすっかり自信をつけたようです。それから毎日にように訪れる顧客
を相手に、時には涙を浮かべ、時には哀れみを乞う様に、丁寧に説明しました。

お客に応じて少しストリーの筋は変えましたが、大筋は田所に説明した内容を踏襲したのです。お
客たちは全員千春の説明に納得してくれました。そして、彼女を慰め、励まし、これからもシュー・
フイッターの千春をひいきにすると約束してくれたのです。

ある日、訪れた桜田は少し違いました。

「千春ちゃん・・、判った。
お店で戯れることは楽しいが、それが危険なことは良く判った・・・、
残念だけれど、店では大人しくするよ、その代わりと言っては何だが、
以前のようにホテルでのお楽しみはいいのだろう・・・、
店長だってそこまでは追っかけてこないだろう・・、
8時に、以前待ち合わせた○○ホテルでどう・・?」

「スミマセン・・、桜田さん・・・。
どうやら、店長は探偵を使って、私達のオフ時間の身辺も密かに調べているようなのです・・・。
なにしろ、お客様と変な関係が公になると、お店の信用問題になりますし、お客様にもご迷惑をか
けることになると思います。それで、店長は本気で疑わしい行為を店から追放する気になっている
のです。多分、店長は私達の誰かがお客とホテルへ行っている事実を既に掴んでいると思います。

もうしばらくは・・、いえ・・、これから先は・・、
残念ですが・・・、私達は身奇麗に暮らさなければならないのです。
セックス抜きで、接客することになると思います。

当然といえば、当然ですよネ・・・。本当に残念です・・・。
桜田さんに可愛がっていただいた思い出を大切にして、真面目に働きます・・」

涙を浮かべて話す千春の言葉に桜田はしきりに頷いて、破格のチップを彼女の手に残して個室から
出て行きました。

こうして二ヶ月も経つと、あらかたの顧客に千春は事情が変わったことを伝え終わりました。全て
のお客が千春の説明を信用し、快く引き下がりました。そして、この頃から、千春は個室の扉を開
け放したままフイッテイングをするようになりました。