フォレストサイドハウスの住人たち(その5)
27 フォレストサイドハウスの住人たち(その5)(127)
鶴岡次郎
2014/02/17 (月) 14:29
No.2473

既に決定的な証拠を掴んでいる千春と疑わしい二、三人の仲間が対象であれば、彼女たちを密かに
呼び出し、良く話し合えばことは解決すると店長は考えていたのです。しかし、半数近い店員がこ
の犯罪に関係しているとなると、彼女たちの罪を暴くと、社内で事が公になり、罪を犯している店
員は勿論ですが、店長も処分を免れられないのです。その上、そのことが外に漏れると店も閉店に
追い込まれる可能性が高いのです。

みんなを前にして、店長はこの先の対応策をじっと考えていました。策を考え出すにはあまりに時
間は短いのです。しかし、先延ばしにはできないのです、この場ではっきりと方針を出さないと悔
いを残すことになるのです。店長は笑みを浮かべて全員を見回しながら、すごいスピードで頭の中
を回転させていました。

〈うん・・、これしかないな!
決定的な証拠をつかんでいる晴美も、疑わしい店員たちも、今回はこのまま泳がせよう、そしてみ
んなに見える形で監視を強化しよう、それで彼女たちが行為を止めれば、それはそれで結構だし、
私の目を盗んで犯行を重ねるようなら、その時は現行犯を押さえて、厳しく対処しよう・・〉

店長は決心を固めました。そして、少し厳しい表情を浮かべ、口を開いたのです。

「今回のような事件がこの先も起きると思います。皆さんだけにその対応をお願いして済ませるこ
とはできないと思っております。今まで以上に、私自身も店頭に出て、お客様の対応に努めるつも
りです。

そして出来るだけ皆さんの側にいて、皆さんを守りたいと思っています。
お客と一緒に個室に入った皆さんを、私はいつも見守っています。
扉の外にはいつも私がいると思って、安心して働いてください・・」

この言葉は千春のようにすねに傷を持つ店員へ向けたものだったのです。佐藤薫のように、何も悪
いことをしていない店員は言葉どおり、店長がいつも見守ってくれると受け止めたのですが、お客
と個室で戯れている店員は、〈店長が個室の外で見張っている。悪い事は出来ない・・〉と、受け
止めたのでした。

お客からセクハラ行為を受けたら直ぐに報告するよう周知させると同時に、店長は内偵を強化する
ことを宣言し、すねに傷を持つ店員にはそれと判る表現方法で、個室も監視の対象にすると宣言し
たのです。

店長の狙いは明らかです。千春は勿論、同じことをしている店員たちに恐怖を与え、千春達が彼女
達自身の判断で自発的に行為を止めるように誘導する作戦なのです。そしてこれこそ、佐王子の狙
いでもあったのです。